不確実性が高まる世の中で前例や過去の成功法則が通用しなくなっている――こういった言葉を目にすることはめずらしくありません。AIの台頭やグローバルな競争環境の変化によって、組織の中の当たり前が通用しなくなっているわけです。
ここで、一歩引いて冷静に考えてみると、世の中の変化が激しいという話は、過去からずっと言われてきたようにも感じます。たとえば、次の一節はいつ書かれたものかわかるでしょうか。
特に重要なことは、世界経済そのものが、乱気流が渦巻く激しい競争状態に突入することである。
こちらは、ドラッカーが1997年(邦訳は1998年)にハーバードビジネスレビューに寄稿した『「すでに起こった未来」への準備』から引用したものです。この言葉を読むと昔からビジネス環境は変化しているように感じますし、それを受けて組織も変わり続けているとも想像できます。
実際、実体験として、私が組織人になった2003年当時の仕事や事業、ワークスタイルを振り返ってみると、今のそれと随分異なることに気づきます。
2003年当時は心理的安全性という議論も1 on 1施策もありませんでしたし、管理職と一般従業員の距離感はとても遠いものでした。課長の指示で統括部長に書類を持っていったら「アポなしで何しに来たんや。やりなおせ」と言われたものです。
また、私のいた会社では、メンバーシップ型からジョブ型へ移行しつつ、目標管理の方法も少しずつ形が変わっていきました。そして、いつの間にか様々な会社や別の部署から人が流動するのが普通になっていました。それに伴い、組織文化も随分変わったように感じます。
これは、ひとつの会社に20年近く勤めたことで気づけたことでもありました。
こうした変化の背景は様々ですが、とりわけビジネスの場合は競争環境の変化が大きいように感じます。その圧力は、どのような職場でも感じてきたことでした。会社が対峙する市場の環境が変われば、バリューチェーンや戦略を変えざるを得ません。また、その変化が大きければ、ビジネスモデル自体も大きく見直すことになります。
こうした変化を察知して手を打つには、前例踏襲型のワークスタイルでは太刀打ちできません。ゆえに、変化多き時代のリーダー、つまり、ほとんどの時代におけるビジネスパーソンには、センスメイキングの力を高めることが必要になります。
センスメイキングとは、不確定で予測不能な状況において、人間や組織が周囲で「何が起きているのか」を解釈して意味を与え、関係者を巻き込みながら行動するプロセスとされています。
ここで重要なのは、複雑で見通しの立たない今に意味を与えることでしょう。言い換えると、わかりやすい答えも手順も前例もない中で、最良の地図を作ることであると言えます。

上のインタビュー記事によれば、経営幹部が考える「重要なリーダーシップの能力」にセンスメイキングを挙げる人が増えているといいます。それは、AIの台頭と無関係ではないと考えられます。
では、AI時代において、センスメイキングの力を必要としているのは、誰なのでしょうか。
おそらく、その答えはほとんどすべてのリーダーでしょう。営業であっても、開発であっても、あるいは人事であっても、変化する環境の中で仕事をしている以上、「いま何が起きているのか」を捉え、意味づけしながら次の一手を考える必要があるからです。
ここで、ドラッカーの言葉に立ち返るならば、リーダーという名を明示的に持っている人だけでなく、仕事に主体的に取り組むすべての人がその対象になるでしょう。
いかに若い新入りであろうと、貢献に焦点を合わせ、結果に責任をもつ者は、もっとも厳格な意味においてトップマネジメントである。組織全体の業績に責任をもとうとしているからである。
出典:プロフェッショナルの条件,P. F. ドラッカー,ダイヤモンド社
その意味では、センスメイキングはHRだけに必要なものではありません。それでも、私は「いま、特にHRにこそセンスメイキングが必要なのではないか」と感じています。
なぜなら、HRを取り巻く前提そのものが、大きく揺らいでいるように見えるからです。