近年、AIを軸とした企業変革に取り組む企業が増えてきました。これは私の伴走支援や教育活動の周辺で観測している話ではありますが、明らかに雰囲気が変わってきています。
例えば、企業のデジタル変革において使われるワードがDXからAXに急速に変化しているのが象徴的です。
これは、戦略人事やデジタル人事をどう実現するかという意味だけでなく、より一段上のレイヤーとして経営・組織戦略全体を考える上で避けて通れない話です。
メルカリ社がAIと人事責任者を1人に集約したというニュースは、この流れを象徴するものでしょう。メルカリは従前より「AI-Native Company」という方針を打ち出しており、テックと人事の融合を目指すのは必然的だったのかもしれません。

このように、日々AIのニュースが駆け巡る中、7月21日に政府はAX政策を打ち出しました。これは実に強い流れを生むように思います。
政府におけるこれまでの個人・法人の認証基盤の整備、地方自治体を含むデータ構造の標準化や、ガバメントクラウドの普及といったDX基盤の整備を踏まえ、今後は、急速に機能を向上させている生成AI 及びAIエージェントを始めとするAI技術を、国、自治体はもとより社会全体で活用するAX/DX を推進することで、効率化・省人化や新たな価値創出を図り、人口減少に対応する¹。
なお、同資料において、AXは次のように定義されています。
あらゆる組織で、AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直すこと。
ここで注目すべきは「見直す」という言葉です。これは、既存の企業や組織を前提とした上でAIをフル活用する戦略に見えます。つまり、AXはトランスフォーメーションの文脈であり、DXの延長にあるわけです。
この記事では、AXというワードを起点にAI企業変革のアプローチを読み解きます。
目次
AI変革を取り巻く様々なワード
AI Transformation (AX) はAIによる企業変革の旗印でありますが、それ以外にもAI-native、AI-first、Agentic Enterpriseというワードをしばしば目にします。
そこで、これらの言葉への関心度をGoogleトレンドを使って調べてみると、特にAI TransformationとAI-Nativeの関心度が高まっていることが分かります。なお、AXはAI Transformationの略語ですが、日本や韓国などで多用されているものの、グローバルではあまり使われていません。

これらの用語はそれぞれ出自も用途も異なるものです。
AI Transformation は、既存の企業や組織がAIを経営・業務に組み込み、構造転換を図る変革プロセスを指します。DXの語彙を引き継ぐ形で普及した言葉であり、日本ではAXと略されますが、先に触れたとおり、この略し方は日本と韓国に特有のものです。
AI-native は、創業時からAIを前提に組織や業務を設計した企業を指します。クラウド前提で設計されたシステムをcloud-nativeと呼んだことのアナロジーで、特定の提唱者を持たずに広がりました。「AIを取り除くとビジネスが成立しない」ことが、後からAIを採り入れた企業との違いです。ただし、新しいワードであり、議論が揺れている部分もあります。
AI-first の起源は2016年、GoogleのSundar Pichai氏による「モバイルファーストからAIファーストへ」という宣言です。当初は投資と優先順位をAIに振り向ける経営の意図を示す言葉でしたが、現在では「まずAIで解けないかを検討する」という業務設計の文脈で使われる場面が増えてきた印象があります。
Agentic Enterprise は最も新しい言葉で、2024年から2025年にかけてSalesforce、Microsoft、McKinseyなどが相次いで使い始め、広がりつつあります。上の三つが変革経路や設計原則を表すのに対し、Agentic Enterpriseは、AIエージェントを前提とした組織運営・オペレーティングモデルを指す言葉と言えるでしょう。
このように四つの用語は同列に並ぶ流行語ではなく、指している層が異なります。この層の違いを頭に置いたうえで、各国の動きを眺めてみます。
各国の動向
これらのワードを踏まえた上で、各国でAIによる企業変革がどのような形で進んでいるのか、その現在地を整理してみました。
米国
変革を主導しているのは企業とスタートアップです。JPモルガンが約20万人規模で社内生成AI基盤を展開する一方、Cursor、Harvey、SierraといったAIネイティブ企業が少人数のまま急成長しています。Amazon、Google、Microsoftだけでなく多数の既存企業がAI-firstを掲げています。その一方で、AI-nativeという言葉が、特にスタートアップや新規事業の文脈で台頭してきました。少なくとも今回取り上げたワードを見る限り、市場や企業実践から言葉が生まれてくるのが米国の特徴にも見えます。
欧州
欧州では政策名がそのまま戦略の旗印になっています。世界初の包括的AI規制であるAI Actが2024年に発効され、適用に向けて着実に規定が積み上がっています。その一方で、欧州委員会は2025年にAI Continent Action Plan、Apply AI Strategy⁴を相次いで打ち出しました。規制で信頼を確保しながら、産業と公共部門でのAI利用を加速するという二本立てです。Human-centric(人間中心)とTechnological sovereignty(技術主権)が言葉の基調にあります。レギュレーションの欧州といった感じですね。
中国
中国は政府主導の「人工智能+(AI+)」です。2025年8月に国務院が公表した行動意見では、2027年までに重点分野でAIエージェント等の普及率70%超、2035年には「知能経済・知能社会」への全面移行という時間軸が示されました³。国有企業への実装を国家が推進する構図で、技術開発よりも応用を強く志向している点が特徴です。企業変革が産業政策の中に組み込まれている、と言ってもよいでしょう。
インド
インドは2024年に閣議承認されたIndiaAI Missionに加え⁵、BharatGenなど多言語・国産AI基盤の整備も進んでいます。規制は意図的にライトタッチで、産業育成を優先する姿勢が明確です。2026年2月にはAI Impact SummitをGlobal Southとして初めてホストし、欧米とも中国とも異なる第三の道を打ち出そうとしています。ITサービス大手が掲げるAI-first cultureもこの国家的な流れと呼応しています。
韓国
韓国政府は国家AI戦略委員会を中心に、産業・公共部門全体のAXを国家戦略として推進しています。特徴的なのは、国産技術による独自基盤モデルの開発をdigital sovereigntyとして明示している点です。Samsung、SK、Naverといった企業と政府が一体で動く、官民結束型の変革と言えます。
日本
日本は2026年7月に「人工知能基本計画」が改定され²、冒頭で引用したデジタル庁の重点計画とあわせて、AXが政策語として定着しました。投資の重点は現場データを活かすバーティカルAIと、ロボティクスと結びつくフィジカルAIに置かれています。ただし、個人のAI利用と全社変革の間の断絶は依然として大きく、AXという言葉には、この断絶を埋めるための動員語という性格があるように私には見えます。
こうして並べてみると、地域ごとに旗印の言葉は違えど、「既存の企業や社会をAIでどう作り変えるか」という問いは共通しています。そして、その問いを整理するには、言葉を層に分けて捉える必要があります。
AI企業変革の二つの軸
ここで、先ほどのデジタル庁によるAXの定義に戻ります。
あらゆる組織で、AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直すこと¹。
先に注目した「見直す」という言葉を、もう一歩踏み込んで考えてみます。見直すためには、見直す対象である既存の組織と業務が存在しなければなりません。トランスフォーメーションという言葉は、定義上、変わる前の何かを前提としています。
つまり、AI Transformation(AX)とAI-nativeは、同じ現象の程度の差ではなく、AI企業に至る道筋が異なるものだと本稿では捉えます。クラウドの時代に、既存システムのクラウド移行とクラウド前提の設計が別の道であったのと同じ構図です。
これはどちらが良いというわけでなく、変革しようとしている企業がどのような組織構造を持っているのかに依存する議論だと私は考えています。あるいは、ビジネスモデルの制約の中で、既存の組織をどこまで破壊できるのか、という話なのかもしれません。
こう考えると、社歴の長い企業が多い日本がAXを旗印にしたのは納得感があります。
①AI企業への道筋:AI Transformation ⇄ AI-native
以上の議論を踏まえると、AI企業変革の道筋として、AI Transformationを採用するのか、あるいは、AI-nativeを前提とするかというのが分岐点になります。これがAI企業変革の一つ目の軸です。
これはある意味でその企業や組織の過去と未来を問う軸でもあります。既存組織を前提にAIを取り込むのか、AIを前提にゼロから設計するのか。少なくとも同一の組織・事業において、これを同時に選択することは難しいでしょう。
ここで注意したいのは、道筋とスローガンの区別です。国内でもAI-nativeを旗印に掲げる企業が出てきていますが、それが本当にAI-nativeな組織をスクラップ&ビルドで目指すのか、それとも既存の組織やビジネスモデルを前提としたAXなのか。
実態として経営方針はどちらかを重視するはずですが、言葉と道筋が混在すれば現場は混乱するでしょう。
②業務設計 AI-first ⇄ AI-augmentation
さて、AI企業変革もう一つ考えるべき軸があります。それは、AIを企業に組み込むときに、オペレーションや意思決定をどこまでAIに委ねるかということです。
AIに一次的な判断や実行を委ね人間が監督に回るのか。それとも、人間の判断を中核に置き、AIがそれを補強するのか。本稿では前者をAI-first、後者をAI-augmentationと呼ぶことにします。
この軸は業務ごとに選択できるものであり、一つの会社の中に両方が混在するのが自然です。ただし、ひとつの事業体やビジネスモデルの中でこれらが混在すると大きな混乱を呼び起こすでしょう。
この混乱は、事業の現場だけでなく、全社のインフラを整備するIT部門、組織設計を行う人事部門のいずれも影響します。したがって、必然的に多くの事業を抱える企業ほど、この軸に対して何らかの標準化や指針を求められることになるでしょう。
二軸で描くAI変革の4象限
ここで取り上げた二つの軸を重ねると、AI企業変革のアプローチは4つの象限に整理できます。重要なのは、これが成熟度の階段ではないということです。左下から右上へ登っていくモデルではなく、独立した二つの選択の組み合わせです。
| AI-augmentation | AI-first | |
|---|---|---|
| AI Transformation(既存組織起点) | (a) 人間の判断を残しながらAIで補強する。既存大企業の主流 | (b) 既存業務をAI主導に切り替える急進変革 |
| AI-native(新設組織前提) | (d) AI前提の環境で、人間の判断を中核価値とする | (c) 少人数とエージェント群で運営する純粋AIネイティブ |
以下、それぞれの象限について、先行事例を出しながら位置づけを見ていきましょう。
(a) AI Transformation × AI-augmentation
JPモルガンは自社開発の生成AI基盤を全社に展開し、資料作成や分析の効率を大きく引き上げましたが、判断は人間に残す設計を貫いています。社内先行・低リスクで検証を重ねる、既存大企業の主流アプローチです。
(b) AI Transformation × AI-first
米国Klarnaはカスタマーサービスの3分の2をAIに置き換えると宣言し⁹、Duolingoは「AI-first」を社内制度にまで踏み込ませました¹⁴。しかし両社とも2025年から2026年にかけて方針を修正しています。Klarnaは複雑なケースの品質低下を認めて人間を再投入し、Duolingoは全社員のAI利用を評価する制度を撤回しました。この象限は組織の摩擦が最も大きくなります。
(c) AI-native × AI-first
Cursor、Sierraといった米国AIスタートアップ企業がこれの典型です¹⁵。数百人以下の人員で数十億ドル規模の事業を運営し、AIエージェントが一次実行を担い、人間は設計と例外対応に回ります。従業員一人あたりの収益は従来のソフトウェア企業の常識を大きく超えています。理想的ですが、ゼロから作るからこそたどり着ける場所にも見えます。
(d) AI-native × AI-augmentation
一見すると矛盾した組み合わせに見えますが、私はここが見落とされている象限だと考えています。AI前提の環境で仕事をしながら、最終的な判断と責任、そして関係性の価値を人間に置くポジションです。法務AIのHarveyが「弁護士にしかできないことに集中するために」と謳うように¹⁶、判断が法的・職業的に人間へ帰属する専門サービスは、まさにこの象限に位置します。コンサルティングや監査、医療などの高付加価値プロフェッショナルサービスにとって、ここは矛盾ではなく合理的な選択肢です。
AI企業変革のアプローチ
では、この二軸の地図の上で、企業変革はどこへ向かうのでしょうか。
AIブームの真っ只中でありながらも、理想と現実のギャップが見え始めています。MITの調査は生成AIパイロットの95%が測定可能な損益効果を出せていないと報告し⁷、Gartnerはエージェント型AIプロジェクトの4割超が2027年末までに中止されると予測しています⁸。
DXの時代に、推進組織とPoCばかりが増えて業務が変わらなかった——この既視感のある構図が、AIでも再現されつつあるのです。
KlarnaとDuolingoの揺り戻しは、この文脈で読むべきだと思います。両社の失敗は「AIを使ったこと」ではありません。どの業務にどこまで任せるかという配置の設計を、一律の宣言で置き換えてしまったことでしょう。Klarnaのケースで言えば、平均処理時間やコストという集計指標は改善していたのに、複雑なケースの品質崩壊を捉えられなかった。設計と計測の粒度が、宣言の粒度より粗かったのです。
ここから、変革のポイントが見えてきます。象限のどこを目指すかという選択そのものより、業務ポートフォリオの中で人間の判断をどこに配置するかを設計し続けることが本丸だということです⁶。
AIと人間の関係には、人間が個々の判断に関与するHuman-in-the-loop、AIの自律実行を人間が監督するHuman-on-the-loop、人間がループの外に出るHuman-out-of-the-loopという段階があります¹⁷。
軸2のAI-firstとAI-augmentationは、この選択に対応しています。
そして重要なのは、個々の業務でループの外に出る範囲が広がっても、どの業務をどのループに置くかを設計し、見直す判断は人間に残り続けるということです。
これはAIの能力の限界の話ではありません。結果への責任が人間と組織に帰属する以上、ループ配置の設計は選択肢ではなく前提だと言えます。
AI企業変革の本質は、AIに何を任せるかを決めることではなく、人間の判断をどこに残すかを設計し続けることにある。
この観点に立つと、AI企業への変革は少なくとも次の段階を踏まなくてはならないことが見えてきます。
- 自己認識 :自社はAXすべき組織を有しているのか、それともゼロからAI-nativeな組織を作るのか。
- 業務設計の選択:事業・機能ごとにAI-firstかAI-augmentationかを見極める。誤りのコストと不可逆性が高い業務ほど、人間をループ内に残す。
- ループ配置の制度化:誰が承認権を持ち、何を自律実行させ、どう記録するか。集計指標だけでなく、複雑なケースの品質を分けて測る。
- 判断・設計力の育成 :人をタスクの実行者から、AIを含めたすべての配置を設計し戦略的に見直す主体へと育てる。
改めてみてみると、この4ステップには技術の話が半分もありません。自己認識すること、業務を見極めること、判断と設計の主体を育てること——これらはいずれも、人と組織の側の変革です。一方、逆説的ですが、「判断と設計の主体を育てる」ためには、AIに対する技術的な理解が必要不可欠であるともいえます。
AXという言葉が急速に広がる今、この二軸を意識して変革の方向性を見極める必要があると私は考えます。
あなたの組織はいま、どの象限で、どの業務の、どの判断を設計しようとしているでしょうか。
注記
本稿の二軸フレームワークは、筆者の実践的観察と公開情報の調査をもとに構成した思考モデルであり、学術的な実証を意図するものではありません。各社の事例は2026年前半時点の公開情報に基づいており、状況は急速に変化しています。
参考文献
- デジタル社会の実現に向けた重点計画,デジタル庁,2026年
- 人工知能基本計画(第Ⅱ期),内閣府,2026年7月
- 関于深入実施"人工智能+"行動的意見,中国国務院,2025年8月
- Apply AI Strategy, European Commission, 2025年10月
- IndiaAI Mission, Government of India, 2024年
- The agentic organization: Contours of the next paradigm for the AI era, McKinsey & Company, 2025年9月
- The GenAI Divide: State of AI in Business 2025, MIT NANDA, 2025年7月
- Gartner Predicts Over 40% of Agentic AI Projects Will Be Canceled by End of 2027, Gartner, 2025年6月
- Klarna AI assistant handles two-thirds of customer service chats in its first month, Klarna, 2024年2月
- From Digital Transformation Fatigue To AI Transformation Urgency: Japan’s Second Digital Awakening, Forrester, 2025年12月
- This year's Founders' Letter, Sundar Pichai, Google, 2016年4月
- Welcome to the Agentic Enterprise: With Agentforce 360, Salesforce Elevates Human Potential in the Age of AI, Salesforce, 2025年10月
- LLM Suite named 2025 "Innovation of the Year" by American Banker, JPMorganChase, 2025年6月
- Below is an all-hands email from our CEO, Luis von Ahn — we are going to be AI-first, Duolingo, 2025年4月
- Bret Taylor's AI Startup Sierra Reaches $10 Billion Valuation, Bloomberg, 2025年9月
- Harvey — AI software for legal and professional services(公式サイト), Harvey
- Safety, Trust, and Ethics Considerations for Human-AI Teaming, arXiv, 2023年