2026年に入ってから、AIの台頭で組織の「人員計画」が難しくなったという話が聞こえてきています。この記事では、この難しさの根本に何があるのかを考えてみます。

採用を控える米国企業

AIによって雇用が影響を受けているというニュースがしばしば流れてきます。例えば、WSJによれば米国ではCEOの66%が採用凍結・削減を計画したという話がありました。

イエール経営大学院が米ニューヨーク市マンハッタンのミッドタウンで昨年12月に開催した最高経営責任者(CEO)の集まりで、調査対象となった経営者の66%が、26年は従業員を解雇するか人員の規模を維持する計画だと回答した。採用を計画していると答えたのは3分の1のみだった。

記事ではこの要因の一つにAIを取り上げています。特に、米連邦準備制度理事会(FRB)のクリストファー・ウォラー理事が全米のCEOの声を以下のように引用しているのが印象的です。

われわれが採用していないのは、AIで何が起こるかを見極めようとしているからだ。

つまり、AIによって本当に人員を削減できるかどうかわからないから、採用を控えているということです。これを背景に、ウォラー氏は「誰もが自分の仕事を心配している。私は本気で言っている」とも発言しています。非常に不安定な労働市場ということでしょう。

一方、欧州では少し様子が異なるようです。欧州中央銀行(ECB)が約5,000社を対象に行った調査では、AI活用度の高い企業の方がむしろ採用に積極的で、雇用を拡大する傾向にあるという結果が出ています。

これらの記事から読み取れるのは、AIによって組織や雇用がどうなるかわからない状況だということです。

言い換えると、AIエージェントが業務に入り込んだとき、その業務に何人必要なのかわからないから、ヘッドカウントの計画が難しいということでしょう。

なぜ業務に必要な人数を数えられないのか

ここで立ち止まって考えたいのは、そもそもヘッドカウントをどのように計画しているかということです。

人員計画では、主に過去の実績(人員数、売上・業務量、離職率など)をもとに将来の必要人数を予測する方法が広く使われてきました。事業成長率を過去の人員に反映し、離職見込みを加味して採用数を弾き出す手法です。簡便で安定している反面、業務内容や生産性が大きく変わらないことを前提としています。

一方、業務の変化が大きい組織では、将来の仕事量から必要な人員を逆算する「ワークロード分析」や「キャパシティ計画」が用いられます。来期の予定業務やプロジェクトから必要工数・スキルを見積もり、現在の人員の処理能力と比較して不足や余剰を割り出すため、業務量や生産性の変化を反映しやすいのが特徴です。

実務ではこれらを二者択一で使うのではなく、過去実績による予測をベースラインとしつつ、主要な職種やプロジェクトにはキャパシティ分析を重ね合わせ、複数の事業シナリオに応じて柔軟に調整するハイブリッドな運用が一般的です。

そしてAIの普及によって難しくなっているのは、この「キャパシティを積み上げればよい」という前提そのものです。AIやAIエージェントによって、ある業務を人が担うのか、AIが担うのか、人とAIが共同で担うのかが変わるため、必要工数を計算する前に、仕事そのものを再設計する必要が出てきています。

AIとは何だろうか?

したがって、AIを前提とした組織設計を行う上では、業務ごとに「人がどのように関与するのか」を考える必要が出てきます。

これを考える上で、まず押さえておくべきことはそもそもAIとは何かということです。結論から言うと、今日のAIは確率的に動作する装置であると捉えることができます。このことを仕組みから考えてみましょう。

利用者視点でAIの仕組みを分解すると、中核となる大規模言語モデル(LLM)と、それを制御するAIエージェントに分けてみることができます。

LLMはテキストなどの人が残した形式知を学習したモデルであり、自然言語を介して非決定論的に推論・生成をすることができる装置です。一方、AIエージェントは、LLMを思考・行動・観察のループに組み込んだ制御系であり、LLMを自律的に動かすための仕組みと言えるでしょう。

AIエージェントの登場により、それまでチャットベースで一問一答形式で使っていたAIを、一定の目的が達成するまで自動的に仕事を任せられるようになりました。

この仕組みを利用した成功例は、スウェーデンの決済大手Klarna社の事例です。OpenAIの技術を組み込んだ顧客対応用AIアシスタントを全世界で展開し、生産性の改善に大きな貢献を果たしたという事例があります。一方、制御が失敗した事例として、OpenAIの自社モデルがテスト用サンドボックスを脱出し、Hugging Faceのサーバへ侵入したという話もありました。

問題は、制御系としてのAIエージェントのプールに対して、どの程度人が関与すべきかということです。これを考えないことには、ヘッドカウントを決めることはできません。

AIに対する3つの関与モード

AIエージェントに対する人の関与の仕方を考えるための参考になるのが、AIエージェント制御に対する三つアプローチです。

AIエージェントは一般に、環境を観察し(Observe)、思考し(Think)、行動する(Act)というループを回します。このループのどこに、どういう形で人を配置するかについて、以下の3つの関与モードが提案されています。

なお、この3分類は「AI企業変革を読み解くAX、AI-native、AI-first」にて提示したAI-first⇄ AI-augmentationの考え方を、具体化したものです。

  • Human-in-the-loop(HITL)
    AIが思考(Think)した結果を、行動(Act)に移す前に人が承認・確認する。一件ごとに人の判断を挟むため、意思決定の速度はAI単体より遅くなるが、誤りが実害に至る前に止められる。契約締結、対外的な発信、金銭が動く判断など、失敗のコストが高く、かつ後戻りが難しい業務に向く。
  • Human-on-the-loop(HOTL)
    AIのループは基本的に自律で回るが、人は常時それを監視し、必要に応じて介入できる立場に立つ。個々の実行を都度止めることはしないが、異常があれば介入する。大量のデータ処理などある程度の失敗は許容しつつ、致命的な逸脱だけは防ぎたい業務に適している。
  • Human-out-of-the-loop(HOOTL)
    AIがループを完結させ、人はその結果だけを受け取って利用する。人はループの外にいる。失敗の影響が小さく、かつやり直しがきく業務、あるいはAIの精度がすでに十分検証されている定型業務に向く。例えば、定期的なニュースソースの集約などがあるだろう。

重要なのは、業務特性やビジネスモデルに合わせて、これらのモードを選ぶということです。必ずしもHOOTLが優れているというわけではありません。