データドリブンHRコンサルタントの武田です。最近はピープルアナリティクスの仕事が増えてきましたので、絞り込んだ肩書に変えてみました。

さて、先週末に「学生のためのピープルアナリティクス講座2025」に登壇し、ピープルアナリティクスの実務についてお話させていただきました。学生から企業人事の方まで幅広い方にご視聴いただき、世代を超えて関心が集まっているのだと感じました。ありがとうございます。

私のセッションでは、ピープルアナリティクスの実務イメージを持っていただくために、前半は人事業務を含めたプロジェクトの概要を解説し、その上で後半にプロジェクト事例として「異動パターン分析」について取り上げました。

前半部分はプロジェクトの特性について簡単に触れたもので、以前セミナーでお話しした「人事データ分析ダンジョンの攻略法」という話の入門になります。

一方、後半でご紹介した異動パターン分析の事例は、独立前も含めて複数のクライアントで実践した内容をまとめた事例になっています。クライアントの幅も広く、業種をまたがる大企業の人事部門、大規模公共団体、中規模公共団体でのヒアリングとデータ分析の経験をシンプルに整理しました。

セミナーではハイパフォーマー分析の手段として異動パターンを分析する話になっていましたが、この方法をはじめて試したときはそうではなく、異動案の自動作成というテーマでした。

公共団体や一部の民間企業では人事部門が全体の異動案を一括で考える業務があり、それを実現するための手段の一つとして異動パターンの抽出を行ったのです。データ構造(特徴量)に着目すると、割と応用範囲の広いアプローチだと思います。

その後、異動パターンの抽出というテーマは異動案の作成という文脈ではなく、社内のキャリアパスの類型化というテーマで度々実施することになりました。


ところで、もしあなたに「従業員の異動パターンを分析して」という依頼があったら、どのようにアプローチしますか?

問題設定の正しさの議論は済んでいて、異動履歴データをポンと渡されたらどこから手を付ければよいでしょうか。

このレターでは、配置を対象とした異動パターン分析の例を下敷きにしながら、分析アプローチの発想法をお伝えしていきます。以下でお伝えするプロセスは私がはじめて異動パターン分析に取り組んだ時にたどった道です。分析アプローチの組み立て方の参考にしていただければと思います。


2026/6/11追記

本稿で取り上げた方法をアップデートさせたOrgPath2Vecというアプローチを以下の記事で取り上げていますので、こちらもご覧ください。

OrgPath2Vec:人事異動履歴からキャリアパスを分析する
異動履歴データから社内のキャリアパターンを発見できるだろうか。本記事では、Word2Vecを応用して従業員のキャリアパスをベクトル化する手法「OrgPath2Vec」を紹介する。所属コードの系列情報だけを用いて、組織内に存在する複数のキャリア類型を抽出した事例を解説する。

Step1: 現象を理解する

異動パターンを分析するにあたり、まず初めに「異動」という現象を理解することから始めました。

そもそも異動とは何か。どういうときに異動があって、年に何人くらい動くのか。異動はいつ、だれが、どのような考えで決めているのかなど、確認すべきことはたくさんあります。

このとき、まずは手始めに過去の経験から異動という現象の手がかかりとなる情報を探すのがよいでしょう。就労経験が長い方であれば自分自身が異動を経験しているはずです。そうでなければ、同僚や家族、友人など、自分の半径5メートルで得られた情報を元に想定します。私の場合は、自分や同僚の異動をイメージしつつ、SE時代に開発していた人事系業務アプリケーションの異動処理も思い出しました。

ここまでの想定は狭い情報でバイアスがかかっていることは否めません。しかしながら、クライアントへのヒアリングポイントを作る上で大いに役立ちます。直観レベルの仮説であって、後で修正することを前提します。積極的に直観を出しつつも、それがN1レベルだと自覚することが大切です。

次に、書籍などから業務の典型例を調べていきました。例えば「人事管理(平野・江夏著,有斐閣ストゥディア)」などの専門書に解説があります。こうして、N1の直観とパブリックな情報を掛け合わせて仮説の輪郭を作っていきました。

これで下地ができましたので、クライアント(分析の依頼者)へヒアリングできるようになりました。こうした下準備をしていないと、ヒアリングポイントがわからないですし、せっかく回答してくださってもキーワードを取り逃がすことになってしまいます。

一方、クライアントにヒアリングするときには、それまでに見聞きした情報をいったん捨て去る必要があります。端的にいうと「フラットな目線でヒアリングする」ということです。その際、答えをすぐに求めず、なるべく具体的なエピソードを聞きながらヒントを得ることが大切です。この方法は研究所時代にエスノグラフィー(行動観察調査)を専門とする同僚を見て学んだ技で、今も役立っています。

Step2:  データを探索して現象への理解を深める

クライアントへのヒアリング等から異動業務へのイメージをつかめたら、それがデータにどう反映されているかを確認していきました。具体的には、異動の情報が記録された異動履歴データの生データを確認し、異動という現象とデータが対応しているかどうかを確認するのです。

例えば、そのデータでカバーされる従業員の数や年間の異動者数を確認してどの程度その現象が記録されているか、カバーされているかを確認します。

この段階で具体的な生データも読んでいるはずですから、Step1の実態をリアルに感じとることができるようになるはずです。もちろん、新たな疑問もでてくるでしょうから、クライアントに確認していきましょう。


次に、異動履歴データを使って異動という現象を統計的に捉えるフェーズに進みました。そこで、今の配置が異動というイベントが積みあがった結果と捉え、「今の所属にいる従業員は、過去にどのような職場を経験してきたのか」という問いを考えてみたのです。

例えば、今「首都圏第一営業部」に配属されている従業員が50人いたとして、その従業員が過去に在籍していた所属をざっくり調べてみるという感じです。言い換えると「どの所属出身者が首都圏第一営業部に集まっているのか」を調べていきます。

これを実行するには、①人事基本情報から現在「首都圏第一営業部」に在籍している従業員の一覧を作って母集団とし、②異動履歴データを当該母集団のデータに絞り込み、③異動履歴データの「所属情報」をカウントアップしてソートすればOKです。以下のサンプルのように棒グラフを使ってもよいですね。これで首都圏第一営業部に在籍している従業員の異動の輪郭が見えてきました。

棒グラフを使った分析(サンプル)

とはいえ、これをすべての所属で別々に見るのは骨が折れます。そこで、クロス集計とヒートマップを使って一気に全体傾向をつかんでいきました。横軸に現在の所属、縦軸に過去に在籍したことがある所属をとったクロス集計表を作ってヒートマップで可視化すれば、全体観を把握することができます。

このヒートマップで何が分かるのでしょう?

今回のタスクは「異動パターンの分析」ですので、異動という現象に何からしらパターンが存在しなければ分析できない話になります。もし、ヒートマップを見たときに以下のようなランダムな雰囲気であれば、これはけっこう難しいぞとわかるわけです。

ヒートマップの例(ランダムな場合)

一方、以下のヒートマップのように何かしらパターンがありそうであれば、分析を進める価値がありそうだと判断することができます。

ヒートマップの例(パターンがある場合)

上のヒートマップをじっくり見ていくといろいろなことが分かります。ざっと挙げてみると…

  1. 所属1~5はクラスターを形成している。その中で従業員が行き来しているのではないか。
  2. 所属11や所属13はいろいろな職場から従業員が集まっている。
  3. 所属12を経験した従業員が各職場に散らばっている。
  4. 対角線が濃いため、所属内での異動(例えば部内異動)が多いのではないか。

ということがわかるでしょう。ここまで来れば異動履歴データを使って異動パターンを抽出できそうだという雰囲気になってきましたね。

また、ここまでの分析結果や実際の履歴を使ってディスカッションすることで、異動という現象を統計的に見る体験をクライアントと共有することができます。この過程が大切だと考えています。

なお、上の例はサンプルですが、過去の分析経験で見たことがあるケースを混ぜた図になっていて、少しはリアリティがあると思います。実際には異動・配置の意思決定を人事がトップダウン的にしているか、事業部主導でやっているか、手上げ方式かどうかなどで傾向が変わってきます。

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