ブログや記事を書いているときに少し困るのが「課題」という言葉です。ビジネスでは当たり前に使われていますが、業界によって位置づけやニュアンスが違ってくるからです。
特に「問題」という言葉と対比すると、その違いが際立ってきます。
例えば、前職では以下のように言われていました。この違い理解することが管理職として大切だとされた時期もありました。なお、この定義は製造業によくみられるものらしい。
- 問題: As Is と To Beのギャップ。
- 課題: 問題を解消するために実施すべきこと・打ち手。
一方、コンサル系の書籍では以下のように説明されることが多々あります。手持ちの本を何冊か見てもおおむねこのような雰囲気。
- 問題: As Is と To Beのギャップ。
- 課題:問題の中で特に解決すべきこと。
前者の課題はActionやMeasure、後者のそれはIssueと呼ぶのがよいかもしれません。
なお、HRにおいて「人事課題」というと、Problem、Issue、Action/Measureが混じる印象があります。そこで試しにClaudeに聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
人事・HR系 正直、最も定義が曖昧な領域の一つだと思います。「人事課題」という言葉が問題なのか論点なのか施策なのかよくわからない形で飛び交うことが多い。(Claude)
実際どうなのでしょうか?
「人事課題」の意味合いを調査
ということで、Webの記事情報を使って、「人事課題」という言葉がどのような意味合いで使われているか調査してみました。
具体的には、Webサーチで「人事課題」というワードを検索し、ヒットした100件の記事において「人事課題」という言葉の意味合いをProblem、Issue、Action/Measureで分類。その割合を元に、どの使われ方が多いのかを調べるというものです。
実際の作業はLLMのDeep Researchを活用しました。ここで、LLMによって挙動や分類判断が異なる可能性もあるため、Gemini、Claude、ChatGPTを並行して利用して比較しました。
結果は以下の表のとおり、思ったよりもProblemが多いという結果になりました。これは製造業ともコンサル系とも異なる傾向です。また、LLMによって判断が分かれていること自体が、あいまいな使われ方をしていることを物語っていますね。
| 人事課題の意味合い | Geminiによる調査 | Claudeによる調査 | ChatGPTによる調査 |
|---|---|---|---|
| Problem (問題) | 41.2% | 51.9% | 33.0% |
| Issue (論点) | 23.5% | 30.8% | 19.0% |
| Action (施策) | 35.3% | 15.4% | 48.0% |
Problemの具体例は、「人手不足・離職・育成不足」といった普遍的な困りごとを人事課題と表現しているようでした。これは一般企業や士業のサイトで見ることができます。まさにHRが直面している問題そのものです。
一方、Issue的な位置づけでは、「人材ポートフォリオをどう動的にマネジメントするか」といった抽象的な問いを人事課題としているケースがあり、コンサルファームやリサーチ機関の記事に出てきていました。
象徴的なのがActionとしての人事課題で、人事SaaSベンダーやHRテクノロジー系企業でよく使われているようでした。例えば、「コミュニケーション基盤の構築」「採用手法の多角化」といった感じです。
改めて見てみると、様々な意味が混在しているものの、情報発信者の立場によって変わることが面白いところです。もちろん、文脈によって変わることもあるでしょう。
人事の置かれた複雑な状況を反映している
改めて、3つのLLMで結果が分かれたことに注目してみます。同じWeb上のテキストを分析しているはずなのに、なぜここまで差が出るのでしょうか。
おそらく、「人事課題」という語の文脈がそれほど多義的であり、どのサンプルを重視するかで判断が変わってしまうのでしょう。人事が置かれた複雑な状況は、AIにとっても分類しにくい対象だということかもしれません。
その背景には何があるのでしょうか。私の見立てでは、人事が向き合っているステークホルダーの多様さをそのまま映し出しているのではないかと考えています。

経営層からは「人的資本経営をどう進めるか」「組織文化をどう変えるか」といった、企業の競争力に直結する抽象度の高い問い(Issue)への回答を求められます。
一方で現場(現場マネージャーや社員)からは、「人が足りない」「若手が辞める」といった、今すぐ解決してほしい切実な悩み(Problem)が人事課題として突きつけられます。
そして、HR系ベンダーからは「このシステムを入れれば解決する」という具体的な解決策(Action)が、解決すべき「課題」のパッケージとして提案され続けているわけです。
今日の人事部門は、これら3方向からの圧力を受けながら、課題の解決に向かわなくてはなりません。それは、コミュニケーションの場面によって、言葉のコンテクストが変わることを意味しています。
こうしたことが、人事課題という言葉に、製造業のような厳密な定義を許さない「あいまいさ」を持たせているのかもしれません。
プロジェクトでのヒント
ピープルアナリティクスやHR系DXのプロジェクトでは、人事担当者、管理職、エンジニア・アナリストが混在して活動することになります。必然的に、メンバー間のコミュニケーションにおいて、課題という言葉の曖昧性が露出してくることでしょう。
そうしたとき、エンジニアやコンサルスキルの高い人は、ついつい「それはどういう意味か」「それは課題でない」などと思ってしまうかもしれません。しかし、HR特有の複雑な状況を加味し、コンテクストを意識しながら柔らかく捉えていくことが大切です。
むしろ、私は対話の中でProblem、Issue、Actionが混在することに価値があると考えています。なぜなら、実際に取り組むべき人事のProblemやIssueは複雑であり、ストレートには言語化されないからです。Actionから逆算して想起できることもしばしばあるのです。
特にピープルアナリティクスで検証すべき仮説を考える際には、十分な対話を行う必要があります。逆説的ですが、目的をくっきりしすぎない方が、HRの仮説は出やすいと感じています。
データ分析プロジェクトで「人事課題」という言葉がでてきたら、どの話だろうかと想像しながらまずは耳を傾けてみましょう。それがProblemなのかActionなのか気にならなくなったくらいに、ふと重要な仮説や現場知見が降りてきます。ぜひ試してみてください。
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