データドリブン経営の肝は意思決定に数字を持ち込むことです。KPIを追いかけることはもとより、KPIと他のアクションとの関連性を統計的に分析することで、ファクトベースで施策を打てるようになるのが理想的です。

このように考えると、数字を効率的に追従して周知するためにBIによるダッシュボードを作るという話に繋がってきます。ダッシュボードをうまく作ると、見るべき数字のグラフや集計結果を一目でわかり、データも随時更新されます。部下やステークホルダーからのペーパーベースでの報告書を待つのではなく、いつでも見られるようにしておけばトレーサビリティも上がって素晴らしいというわけですね。

ダッシュボードの作り方について考えてみます。

KPIを可視化する(トップダウン)

さて、この「ダッシュボード」ですが、それを作るときにどのような情報を詰め込むか明確になっているでしょうか。

トップダウンで考えるならば、組織目標としてのKGIがあり、KGIをブレイクダウンしたKPIが構成されていて、それらのKGI/KPIと補助情報をダッシュボードに盛り込めば良いということになります。しかし、このように作ったダッシュボードは数字に動きが少ないことも多々あり、特定の上級管理職が見ているだけ、ということにもなりかねません。

特に、人事分野においては、カチッとしたKGI/KPIの構造を作ることが難しいという問題があります。もしかすると、人的資本経営の取り組みで定めたKPIをダッシュボードで見える化することになるかもしれんが、時間外を除いてほとんど動きのないものになるでしょう。

現行の作業をベースに作る(ボトムアップ)

これと真逆の考え方として、今現在人事担当者がやっている手作業をベースに考えてみるというアプローチもあります。

たとえば、所属別の時間外や年休消化率の情報をExcelで集計して各部に配ったり、必須教育の受講状況を整理して本部長に通知したり。人事部門には、こうした既存システム外の手作業が割と多く残っていて、人事担当者の作業負荷を上げている一因になっています。これをダッシュボード化することができれば、集計と伝達という作業の負荷を下げられます。

このボトムアップなアプローチは、ピープルアナリティクスに取り組み始めた組織の初手としてしばしば行われるものです。データドリブン経営を地道に積み上げるための一つの方策だと思います。

しかし、それで本当によいのでしょうか? 他にやるべきことは残っていないでしょうか。

ためしに、上にあげた時間外や年休消化率のダッシュボードができた後の世界をイメージしてみてください。勤怠管理システムが締まった月末、毎月時間に追われながら夜な夜なExcelを作り、メールを書いて飛ばしていた作業。これがなくなるとどうなるか。

確かに人事担当者は楽になりますし、現場では巨大なExcel表を開けなくて済むかもしれません。最新のBIツールで作ったダッシュボードは美しく見やすくなりました。

では、マネジメントにはどのような変化が起こるのでしょうか?
おそらく、従来のExcelを完全に踏襲したダッシュボードを展開しただけであれば、さほど大きな変化はないと予想されます。

ダッシュボードで変化が起こるとき

もし、ダッシュボードを展開してマネジメントに変化があったのなら、以下のいずれかの施策が打たれたときだと思います。

  1. これまでに提示していない情報を提示するようになった。
  2. これまで見るべき数字を見ていない人が見るようになった。
  3. 数字の見方と見ている人の取るべきアクションが明文化された。

1点目は情報の質と量、2点目は伝え方、3点目は処方箋の開示に関わる内容です。この中でもっとも大切なのは3点目の処方箋で、これはダッシュボードを展開した人や部門が責任を持って周知すべき内容です。そして、情報や伝え方はそれに従うべきでしょう。

こう考えると、先ほど示したExcelをダッシュボード化するという戦術だけでは、少々もったいないように感じます。せっかくコストをかけてダッシュボードを作るのですから、未解決の人事課題を少しでも解決できるようなダッシュボードにしたいところです。しかし、冒頭に述べたように、KPIだけでアクションを促すことが難しいこともあります。

データを深堀りしながら課題を探る(ミドルアップダウン)

このようなときは、人事チームで今一度課題を洗い直すのが良いでしょう。このとき、ミーティングベースであれこれアイデアを出すことに加えて、実データを探索しながら課題を探っていくことをおすすめします。

先の労務ダッシュボードの例でいうと、例えばある担当者から「管理職の長時間労働が問題に感じる」という意見がでたなら、実際に一般従業員と管理職の違いをBIツールを使って可視化してみます。さらに、「部門によって働き方が違うんだよね」「グレードによって違いがあるのかな」といった意見が出てくるたびに、細分化して見ていくのです。

こうすることによって、プロジェクトメンバーが課題を探ることができるだけでなく、ダッシュボードで見て伝えたい情報を自然に理解し、定めることができるようになっていきます。

そしてプロジェクトの責任者が「こういう期待を持って展開しよう」と意思決定すれば、処方箋を作ったことになります。まさにミドルアップダウンな取り組みですね。

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対話のための場作りが鍵

この話のポイントは対話の場をつくるということです。もし、BIツールを買ってきて各自自由に使ってください、というアクションだとこのようにはなりません。それで業務改善のアイデアが出るなら、Excelベースでもあれこれアイデアが出ているはずです。

こうした対話のポイントは、日常業務に隣接した新しいプロジェクトの中で客観的かつ建設的に話すことだと考えています。

そのため、ダッシュボードを作る前に、データをあれこれ深堀りしながらチームで対話することをおすすめしています。