ITコーディネータは、経営とITの間に立って経営変革を一気通貫で支援する人材で、ITコーディネータ協会が資格認定を行っています。民間資格ながら経済産業省推奨の資格となっていて、近年知名度が上がってきたように思います。私は2023年にITコーディネータを取得しましたが、ITによる経営変革プロセスを学ぶことができ、とても良い学びになりました。
ITコーディネータの方法論とノウハウは、ITCプロセスガイドライン(以下PGL)に集約されています。ITC資格を取るには筆記試験の合格とケース研修の完了が必要なのですが、それらの土台になっています。
さて、そのPGLがこの春にバージョアップされ、PGL4.0となりました。4.0からPDF版は無料公開されています。私も早速読んでみました。
一読しての印象は以下の通りです。
- 時代に即したアプローチになった。重厚な経営計画からOODA的アプローチへ。
- シンプルにまとめられている。51個もあった原則が10個に集約。
- 価値創造が全面に!
- 組織学習(学習する組織)や人的資本経営も含まれている!
- データの利活用が明記された!
これらについて少し掘り下げてみます。
1. OODA的アプローチへ
従来のPGL3.1も全体のプロセスはサイクリックになっていたのですが、IT導入以降はウォーターフォール的な印象がありました。これには良い面もあり、中期事業計画を起点としてIT戦略を具体化する流れを作るという点で素晴らしいプロセスでした。データ経営に必要なKGI/KPIの落とし方もわかりやすかったです。その一方で、Webサービスを絡めた自社サービスの開発や、AI・データを使った組織文化の変革とはフィットしにくい面もあったように感じています。
PGL4.0はこの点が全面的に変更されていて、端的にはOODAループ+DevOpsの要素を取り入れたものになっています。より時代の変化に合わせてスピード感ある経営を目指していくためのガイドラインになったわけです。
なお、クニラボが提唱している仮説検証サイクル(DDDI)は、PGL4.0の「価値実現サイクル(C2)」の仮説検証型アプローチを実務レベルでブレイクダウンしたものになりますね。
2. シンプルになった
PGL3.1にはIT経営にまつわる様々な教訓が蓄積されており、経営者にとってもIT部門にとっても有益な情報があったと思います。その教訓はIT経営の各プロセスごとにまとめられており、フェーズごとに気にすべきことがすぐにわかるという点で優れていました。
一方、PGL4.0では、サイクリックなデジタル経営に合わせたガイドラインとなったため、フェーズの考え方が変わっています。それに伴って、原則が全体で10個にまとめられ、シンプルなものになっています。
ガイドラインとしてどちらがよいか迷うところですが、攻めのデジタル経営において「こういう手順でいけば必ず成功する」という銀の弾丸はないと私は思っていますので、原則はシンプルの方がよい気がしています。
3. 価値創造が全面に
何のためにITを活用するのか?――この問いに対し、PGL4.0はストレートに「顧客価値を創造することを目指す」と宣言しているように感じます。ITで社内プロセスの変革だけを目指すのではなく、顧客価値を高めることに注力するのだと理解しました。この点はとても重要な話で、ITの役割が大きく変化していきていることを意味しています。
一昔前は、ITというと生産性を改善するための道具として位置づけられていました。基幹系のシステムにせよ、情報基盤にせよ、突き詰めるとアナログ作業の代替に位置づけられるようなイメージでした。Webマーケティングは売上を押し上げるものですが、チャネルとプロモーションの施策であり、企業が持っている商品そのものは変わらない前提での活動が多かったはずです。
しかし、デジタルトランスフォーメーションが目指すべきは、業務効率化ではなくデジタル技術を活用した新たな事業の創出です。その結果として社会が変わる、つまり新しい顧客価値を創造することを目指すわけですね。
私はITベンダーに所属していた20年間の間に、ITの位置付けが変わっていくことを実感していました。はじめに取り組んだのは業務の電子化で、効率化を目指したソフトウェア製品の開発に携わりました。その次に取り組んだのは、クリティカルな場面で意思決定に必要な情報を提供するソリューション開発で、新市場の創出に奔走しました。最後のポジションのテーマは「いかにしてデータとITで価値を社会創造するか」というもので、データドリブン経営と自社サービスの開発に取り組みました。
このように、SIerともいわれるITベンダーに所属しながらSIでない活動に身を投じてきたのですが、その中でもオペレーション効率化から意思決定支援、さらには事業創出という形で変化していきました。そして、この流れの中でITの内製化シフトが起きていることを感じ取って、クニラボを立ち上げたのでした。
この経験を踏まえ、PGL4.0はデジタル経営の内製化を目指すものと理解しました。まさに、クニラボのミッションとフィットするガイドラインだと思います。
4. 組織学習と人的資本経営
デジタル経営によるビジネスモデル変革を目指すためには、組織全体で市場課題を学びながら変化していかなくてはなりません。ここで重要なのが組織学習(学習する組織)という概念です。組織学習は、ピープルアナリティクスに取り組み始めてから学んだことですが、とても大切な概念だと思います。
また、近年、人的資本経営というワードも目立つようになりました。人的資本経営は組織人材を資本として位置づけて中長期的な成長を目指すもので、一見すると昔からあるような話に聞こえるかもしれません。
人的資本経営が注目された背景には、2018年にISO30414が制定されたことがあります。これにより、米国で人的資本の開示が義務化されるようになりました。また、日本国内では経産省から伊藤レポートが出されたことで注目され、ついに2023年3月より日本の上場企業でも開示が義務化されました。
PGL4.0においても、それぞれのトピックスが盛り込まれています。一見すると、これらはグローバルな流れの中で生まれたイベントに見えるかもしれません。しかし、先ほど述べたデジタルによって価値創造を目指す上で、欠かせない要素だと私は捉えています。
なぜなら、デジタルでビジネスモデルを変革するには、多様な価値観を持つ人材を内包し、時代の変化にあった企画人材やエンジニアを育てる必要があるからです。そして、投資家はそのことを理解していて、人的資本の開示を求めているのです。
5. データの利活用が明記された
PGL3.1ではデータの利活用が明記されていませんでした。データサイエンティストとしては少々残念でしたが、ケース研修ではデータ活用のアイデアを盛り込むことができましたので、汎用性の高いプロセスだったと思います。一方、PGL4.0ではデータ利活用について言及されています。索引で見つけたときにはうれしくなりました。
PGL4.0では、デジタル経営のアジャイルなプロセスを回す上で仮説検証をするためにデータを利用することをガイドしています。データ利活用方針の策定から、モニタリングまで網羅されており、納得感のあるものです。これは、Webサービス企業やスタートアップでは当たり前になっている、リーン型の顧客開発のために重要です。
一方、実際にデータを分析して経営や製品を改善していくためには、①データ分析スキルを持った人材を確保し、②データ基盤を整え、③組織文化を変革していく必要があります。このうち難しいのは③で、暗黙知と阿吽の呼吸から脱却しなくてはなりません。これは、十数年わたるデータサイエンティストおよび技術コンサルティング経験から学んだことです。
クニラボが目指しているのはまさにこの課題の解決です。データ活用ができる人材を育て組織文化の変革をサポートしていきたいと考えています。