先週の3月7日、富士通ラーニングメディアのセミナー「今求められる世界水準の人的資本経営と、社員が自ら学べる環境づくり」に参加しました。富士通のキャリアオーナーシップの取り組みを詳しくお聞きすることができ、ピープルアナリティスクの視点でも学びがありましたのでレポートします!
人的資本経営実現に向け、富士通が取り組んだ2つのこと
富士通は2020年4月より管理職にジョブ型人事制度を導入し、その2年後の2022年に全社員に拡大しました。この取り組みは事業戦略を起点とした人材マネジメントを実現するものであり、人的資本経営の観点からも重要な施策といえます。
本セミナーの第一部では、富士通株式会社 取締役執行役員 SEVP CHRO 平松氏より、人的資本経営を実現する上でポイントとなった2つの取り組みについてご紹介がありました。
将来の人材ポートフォリオとのGapの明確化
一つ目のポイントは、事業に必要な人材ポートフォリオを明確にしたことだといいます。具体的には、「どの事業をどの地域でどう伸ばすか」という事業戦略をベースに事業のポートフォリオを考え、その上で増やすべきロールを整理していったのだそうです。まさに戦略人事ですね。
これを実現するにあたり、Role Profile(役割定義)を整理した上でJob Descriptionを全社で準備したことが軸になったとのことです。これはジョブ型人事制度の導入に他なりませんが、事業を起点にロールを整理する上で制度変革が不可欠だったのでしょう。
経営戦略と人事戦略を連動させるべく、トップダウン型で事業変革を推し進めていったこととがわかりますね。
なお、第二部のパネルディスカッションでモデレーターの方から「この取り組みは事業の競争力強化に寄与しているか?」というストレートな質問がありました。これに対し平松氏は、成長領域への人材獲得と育成のスピードが向上していることは確かで、その結果として事業への貢献が見込まれるという回答がありました。
また、採用力が従来より向上しているというお話もありました。先日発表された新卒一括採用の廃止・通年採用への移行という施策は、こうした取り組みの結果なのだと感じました。
キャリアオーナーシップの実現
もう一つのポイントは、従業員ひとり一人がキャリアオーナーシップを持てるようにしたことだといいます。
従来、社内でのキャリア形成は会社任せの面があり、平松氏自身もそうだったと語られていたことが印象的でした。そういった受け身のキャリア観を脱却し、従業員自ら良い生き方・働き方を考えることができるよう会社として様々なサポートをすることで、文化を変えていったというお話でした。
お話を伺っていて、キャリアオーナーシップを実現するにあたり、異動の仕組みを変えたことが大きいように感じました。
富士通では手上げ式で新しい職場に異動できる「ポスティング制度」を2020年から導入しています。そして、導入後4年間で2.7万人が応募し、1.0万人が実際に異動しているということです。このポスティング制度は流動性を促す強力な仕掛けとなっているようです。
なお、富士通ではポスティング制度導入以前にも社内公募制を導入していたのですが、積極的に活用されてこなかったというお話もありました。実は、私は在籍時に社内公募を利用したことがありますが、周囲からはイレギュラーな動きとして見られていたように思います。しかし、「従業員が自分のやりたい仕事を常に考えるようになった」というコメントもあり、今ではポジティブに捉えられているようです。
その一方で、マネジャー層の負荷は上がっているのではないかと感じるお話もありました。従来のように人が組織に固定され続けるとは限らず、チームメンバーを動機付けしながら流動性に対応していかなくてはならないからです。私自身、管理職になって1年後にジョブ型が導入されたため、この課題と向き合うことになりました。
その他、学びの好奇心を刺激するプラットフォームや従業員同士がキャリアについて対話できる場を提供するなど、側面からサポートする体制が整ってきているようです。
ピープルアナリティクスの視点から考えるべきこと
さて、この富士通の人事変革はピープルアナリティクスに取り組む人にとっても注視すべき話題だと思います。このセミナーで語られた変化は、多かれ少なかれ多くの企業や組織も直面することになると予想できるからです。
人事戦略の変化に対応していく
ジョブ型人事制度が導入されると、人材の確保・育成・評価の力点が人事部門から事業部門に移ることになります。また、富士通のように通年採用前提で、かつポスティング制度が機能し始めると、事業部門の管理職が担うピープルマネジメントの在り方が否応なしに代わる可能性もあります。
このような変化が起きると、HRBPの重要性が増してくるとともにその役割も変わっていくことが予想されます。結果的にピープルアナリストは人事部門だけでなく、HRBPをサポートする場面が増えるのではないでしょうか。
また、ジョブ型人事制度を導入しているか否か、またキャリアオーナーシップを進めるかどうかによって、ピープルアナリティクスの課題が異なることに注意しなくてはなりません。例えば、タレントマネジメントというキーワード一つとっても、人事戦略の方向性によって取り組むべき課題は異なります。結果的に、ピープルアナリティクスの問題設定も変わってきます。
変化のフェーズに対応した問題設定を
さらに、こうした人事制度改革を進めている状況では、フェーズによってデータアナリストに求められる視点が異なることにも注意が必要です。具体的には、①制度改革前の検討段階、②意思決定後のインプリメントの段階、③運用後の軌道修正や改善で、問題設定が大きく変わってきます。
実際、私はRole Profileの分析やキャリア自律に関する分析に携わったことがありますが、これはどちらかというとフェーズ①のテーマでした。また、フェーズ③の取り組みでは、ジョブ型導入後にはJob Descriptionの分析を通して改善施策を検討したこともありました。
このように、ピープルアナリティクスに取り組むチームは、自社の人事戦略の移り変わりを意識して問題設定することが求められます。
まとめ
この記事では、富士通ラーニングメディアのセミナーでお聞きした内容をレポートさせていただきました。過去にお世話になった会社の人事変革に関する話題で、在籍経験から見ても変革のダイジェスト版を見ている気持ちになりました。この変革は今後の国内人事の行く末を暗示しているように感じ、ピープルアナリティクスにかかわる方も注視すべき変化だと思います。