データアナリストは、成果を出すプロジェクトの中でこそ育ちます。
近年、人的資本経営やピープルアナリティクスの重要性が高まる中で、データ分析チームを率いるマネジャーには「成果」と「人材育成」をどう両立させるかという課題が突きつけられています。
成果を優先すれば新人が育たず、育成に偏れば成果責任を果たせない──このジレンマは多くの現場で共通しています。
本記事では、データ分析チームを率いるマネジャーの視点から、データアナリストを育てるための3つのポイントを解説します。
ピープルアナリティクスや人的資本経営の取り組みにも通じる、成果と育成を両立させるための実践知です。
1 学びと実践のサイクルを意図的に仕掛ける
Webに情報があふれている現代ではありますが、本を読んで難解なコンセプトと対峙するという時間はデータアナリストにとって必要な時間です。本は紙でも電子でも構いません。未知の分野を学ぶ上でWebに点在する情報だけを頼るのは難しい面があります。
そして、本で学んだことを実践してみる。実践してみると大抵上手くいかないか、上手くいったと思い込んでいるはずなので、本に立ち返る。このサイクルが大切です。
このように、データアナリストが成長するには「知識を学ぶ時間」と「実務で試す機会」の両方が必要です。しかし、現場で成果を優先するあまり、このサイクルがうまく回らずに終わってしまうことも少なくありません。
そこでマネジャーに求められるのは、メンバーが学んだことを実務で試し、失敗から学んで再び知識に立ち返る機会をつくることです。
2 プロジェクトを育成の場に変える
学びと実践のサイクルを回す上で鍵となるのがプロジェクトです。リアルなデータ分析プロジェクトでの経験を通して、データアナリストは育っていくのです。
育成のプロセスは、1度のプロジェクトでは全くたりませんが、1回目と2回目では理解度が大きく変わってきます。伴走支援をしているクライアントからも次のような言葉をいただいたことがありました。
「この前のプロジェクトで教えていただいたことを今のプロジェクトで実践してみたのですが、見える風景が変わっていることに気づきました」
これは私自身の体験とも、かつて育ててきたデータアナリストの姿とも一致しています。
はじめてのプロジェクトに挑むデータアナリストは、漠然とした不安を抱えながら仕事をしていることを忘れてはなりません。もちろん、学生時代に統計や機械学習を使った研究をしていた方は違うのかもしれませんが、私を含め大半の方はそうでしょう。
一度データアナリストの実務者としてプロジェクトを経験すると、次の仕事ではずいぶん動けるようになっていることに気づくでしょう。
ただし、これには条件があって、1度目と2度目の問題設定や分析アプローチが似ていることが前提となります。そうでない場合は、苦戦することになるわけですが、スキルの幅が広がるという育成上のメリットが生まれます。
同じ仕事をしながら深めるのか、それとも広げていくのか――プロジェクトを通して人材を育成する際には、このトレードオフを考える必要があります。
3 マネジャーが仕掛ける育成の工夫
マネジャーに求められるのは、プロジェクトを活用しながら「知識を学ぶ時間」と「実務で試す機会」を両立させ、データアナリストを育てることです。
これは自然に起きるものではないため、アサインやレビューを通じて意図的に仕掛けていく必要があります。以下、3点に分けて具体的にやるべきことをあげていきます。
3-1 育成を意識してアサインする
分析チームには様々な仕事がやってくるわけですが、それらをうまく捌くだけでなく、実務を効果的に活用してメンバーのスキルやマインドセットを底上げしていきます。言葉で書くと当たり前に感じられますが、シビアなビジネスの世界で実行するのは容易なことではありません。
マネジャーは成果を上げることが何より求められます。人材育成も大切といわれていたとしても、それによってプロジェクトが失敗することを常に許容する組織はあまりないでしょう。
そのため、マネジャーは失敗しないアサインメントを選択しがちです。つまり、経験者や熟練者、時にはプレイングマネジャーとして自分自身に仕事を振ってしまい、いつまでたっても初学者が育っていかないという事態になります。これは、会社の中で事業部門に在籍していた時、いたるところで見かけた光景でもありました。
こうした問題を打破するためには、マネジャーが人を育てるという意思をもって仕事を組み立てていかなくてはなりません。簡単なことではありませんが、次のような仕掛けが有効です。
- 1 on 1やレビューを通してメンバーのスキルや得意不得意を把握する。
- プロジェクトの発生をいち早く察知し、育成を踏まえたアサインメントの計画を立てる。
- メンバーが対応できる範囲とその仕事で伸ばすスキルを見込んで、プロジェクトにアサインする。
- 公式なミーティングとは別の形でメンバーのメンタリングを行える場を準備する。
- 成果が上がらなかった場合のリカバリー計画も準備しておく。
こうした仕掛けの中でプロジェクトを回しながら、適切なタイミングで「次の学び」のポイントを示すことも大切です。
3-2 チームの文化を作る
メンバーの活動時間はマネジャーと接していない時間の方が長いものです。その時間にメンバーが成果を出しスキルアップを図るようになるには、メンバーの自律が鍵になります。そのため、プロジェクトのマネジメントと並行して、チームの文化を作っていくことも忘れてはなりません。
文化を作るというのはなかなか難しい命題ですが、もっとも重要なのはマネジャー自身の言動です。
マネジャーがどのようビジョンを持っていて、どのように行動し、何を話しているか。これらが文化としてチームに染みわたっていくのです。
たとえば、次のようなことです。
- 期初やプロジェクトの立ち上げでどのようなビジョンを語るのか。
- 相談に対してどのように答えるのか。
- プロジェクトで問題に直面したとき、どうふるまうのか。
- 理不尽な場面に遭遇したときにどうするか。
- クライアントやステークホルダーとどう話すのか。
メンバーはこうしたマネジャーの行動や言葉をよく観察しています。そして、その一つ一つが積み重なるようにしてチームの文化を作っていくのですね。
ここで考えるべきは「どのようなチームにしたいのか」ということです。チームがありたい姿にたどり着けるかどうかは、マネジャーの振る舞いにかかっているのです。
3-3 対話の場を作り出す
さらに、メンバー自身が工夫しながら実務を通して学びつつ、メンバー同士が高め合うようなチームを作ることができればベストです。
とはいえ、「メンバー同士で話して解決してね」というだけでは効果はありません。むしろ、投げっぱなしじゃないかとマイナスになることもあります。
そこで、チームの中で自然と対話が生まれるような仕組みを作るのもマネジャーの仕事です。
いくらマネジャーが優秀だったとしても、仕事が増えてくれば手取り足取りというわけにはいかなくなります。そのため、チームでの活動がメンバーのスキルを高め、自律を後押しするような仕組みが必要になるのです。
たとえば、プロジェクト外で次のような場を作っていきます。
- 仕事やスキルアップに役立つ情報が自然に流通するスペースを準備し、自然に立ち上げていく。
- 技術やドメイン知識に関する勉強会を実施し、自己研鑽の必要性を実感しながら自走へ導く。
- 定期的にプロジェクトの振り返り会を行い、暗黙知を形式知にしていく。
ただし、ここにあげたアイデアはあくまで一例であると考えてください。チームの状況やメンバーの特性によってフィットする方法を探していくことがポイントです。
まとめ:意図をもって育成する
マネジャーにとって「育成」と「成果責任」をどう両立させるかは大きな課題です。この記事では、この課題を解決するためのアイデアを提案してきました。
人を育てる意思を持って仕掛けを設計することが、結果的にチームの成果を最大化します。そしてこれは、人的資本経営やピープルアナリティクスを実践する上でも欠かせない視点です。
マネジャーがこの原則を忘れなければ、強いチームを作れるでしょう。