2025年8月8日に、総務省から「時代に即した組織運営・人材戦略に関する分科会報告書」が出されました。自治体人事の在り方を問う重要な報告書で、ピープルアナリティクスとも親和性が高い方法論が提示されています。

このブログでは、総務省の報告書をひも解きながら、自治体における人事データ分析の可能性を考えてみます。

今後の自治体組織運営に求められること

報告書では、人口減少時代にいかにして持続可能な組織運営を実現するかについて、重要な提言がなされています。特に、次の2点が重点ポイントとして挙げられていました。

  1. 職員の能力を最大限発揮できる環境を整える
  2. より多くの人材に公務を選択してもらえるような組織運営・人材戦略を進めていく

一つ目の点は人材マネジメントの方向性を示すもので、今後の自治体人事の指針となるでしょう。タレントマネジメントのみならず、組織開発やウェルビーイングまで幅広い取り組みが求められることになりそうです。

一方、二つ目の切り口は個人的にハッとした点でした。人を取り合っている状況において、組織として労働市場から選ばれる存在にならなくてはならない、という強いメッセージを感じたからです。

その昔、私が自治体人事向けにプロダクトを開発していたとき、人口動態を鑑みて自治体マーケティングの必要性を議論したことがありました。それから十数年。いよいよ行政人材確保のための環境整備や採用ブランティングが必要になってきた状況を目の当たりにし、時代の移り変わりを実感したのです。

このように、今後自治体は人口減少時代に対応すべく、職員の能力が最大限発揮できるような組織作りをしていかなくてはなりません。全国に広がる自治体行政組織は規模が大きく異なりますし、ロケーションや文化にも違いがあります。そのため、一口に自治体といっても、その組織運営に必要な人材戦略は変わってくることでしょう。

つまり、結果的には組織ごと――つまり自治体毎に何らかの特色を持つようになることを意味しています。

これは民間企業では当たり前のことですが、自治体においては公務員関連法や人事院の指針があるがゆえに、人事管理プロセスの一部は標準化されていました。また、毎年の法制度改正の対応コストを削減するために、自治体に特化したERPパッケージやSaaSを利用することが前提となっていたのです。

しかし、人材マネジメントの視点に立てば、旧来のコア人給(人事管理+給与管理)の周辺での打ち手が重要になるはずです。おのずと人事施策も多様化していくのではないかと予想しています。

これからの組織運営・人材戦略のための考え方

では、具体的にどのようにして自治体組織で人材戦略を考えていけばよいのでしょうか?

報告書では進め方のガイドとして「組織運営・人材戦略を考える際のモデルとなる手順・考え方」を提示しています。その内容を概略して図示すると次のようになります。

4つのステップで人事施策を打っていく流れになっています。

ここで注目すべきは、Step1に情報分析による仮説設定や仮説構築を行うという点です。端的にいうと人事データや定性情報を元にファクトベースで課題・仮説を見つけようということですね。そして、検証された仮説を元にStep4で施策を打つわけです。

報告書では仮説の検証を行うタイミングについては明示されていないように見えました。しかし、Step4の前提条件に仮説が検証されていることが含まれていたので、Step2あたりで仮説検証を行うものと想定し、図に入れ込みました。

この流れを見てみると、民間企業におけるピープルアナリティクスの取り組みと類似することに気づきますね。まさに、総務省の言う持続可能な組織運営を目指す上で、ピープルアナリティクスが鍵を握るのではないかと考えています。

あるべき姿を考える前に現状把握から

個人的にもっとも共感した点は、経営理念やミッションの議論をStep3においているところです。これは本当に人事という仕事や文化の特性を踏まえた考え方で、民間企業でも活用できると確信しました。

ともすれば、Step3のような「あるべき姿」の議論は冒頭に置くべきと考える人もいらっしゃることでしょう。特に、マーケティングや製造などのデータ分析ではそうですし、経営コンサルのやり方も概ね同じです。

しかし、これまで数々のピープルアナリティクスを経験して得られた知見として、「人事データ分析を始めるときに『あるべき姿』の議論から入ると失敗してしまう」という経験則を私は持っています。

この点は、セミナー「人事データ分析ダンジョン攻略法」でお伝えしたことがありますが、人事担当者や人事分析チームの皆様からも共感をいただいている話です。

人事担当者の方は「人や組織の可能性は一つではない」という考えを持っています。だから唐突にあるべき姿から議論しても上手くいかないのです。

こういう話をすると「仮説や目的が必要なデータ分析は人事に合わないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私はそう考えていません。

多様な視点が必要だからこそ、議論を広げ、チームの目線を合わせるためにデータが必要なのです。データ分析は結論を出すためだけにあるのではなく、メンバーの会話を促するためにも活用できるのです。

まずは、第一歩として「今組織でどんなことが起きているのだろう」と考えながら、現状を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。