データ分析プロジェクトでは、対象とする業務や問題設定を問わず、どこかの時点でグラフを描くことになります。初期分析や探索的データ分析、分析結果のレポーティングなど、データアナリストはグラフを活用しながら分析を深めていきます。

人事データ分析でもグラフは大切ですが、とりわけプロジェクトメンバーとの議論を深めるために欠かせないものだと考えています。それはレポーティングの場面だけでなく、日常的なグラフを使った対話が大切だという意味です。

この点について、他分野のプロジェクトと比較しながら掘り下げてみます。

コミュニケーション密度

データ分析に必要な時間は様々ですが、少なくとも1.5か月から3か月を最小期間としてプロジェクトを回すことが多いのではないでしょうか。データ分析リソースを外部調達している場合は、半年から1年程度のプロジェクトになるかもしれません。

人事データ分析のプロジェクトでも同様なボリュームになりますが、他分野のプロジェクトと比較してよりコミュニケーションに時間をとる印象があります。主観的ではありますが、うまくいくプロジェクトほどプロジェクトメンバーでよく会話しているように感じます。

逆に、プロジェクト期間内の会話が少ないと、アウトプットに納得がいかないということで手戻りが起きたり、結果が活用されなかったりする傾向があります。分析作業をしている間に、データアナリストと人事担当者(クライアント)のベクトルがずれてしまうわけですね。

この問題は人事以外の業務領域でも生じることがあります。しかし、とりわけ人事領域でデータ分析に取り組む場合は、より丁寧にコミュニケーションをとった方がうまくいきます。

他分野のプロジェクト例と比較しながら、この点を考えてみましょう。

製造分野における異常検知プロジェクトの例

例えば、製造分野で生産ラインのデータを使って異常検知を試すプロジェクトを考えてみましょう。

このようなプロジェクトでは、生産品質の改善やオペレーションのコスト削減が狙いとなります。そのため、対象課題が組織的に重要課題だとなれば、プロジェクトのストーリーは明確であり、データ分析チームは異常検知ができるかどうかという点に集中していきます。このようなプロジェクトで問題となるのは以下のような状況です。

  • データに不備があるとき、もしくは、狙ったデータが極端に少ないとき。
  • 期待される検知精度に到達できないとき。
  • 異常検知を組み込むためのシステムコストが業務改善効果に対して過大であるとき。

どれも経験があるのですが、異常検知はそもそも問題として難しい部分があるので、プロジェクトを始める前にリスク判断に時間をかけていました。

逆にいうと、プロジェクトが始まってしまうと、例えば3か月後のタイムリミットに向かって頑張って走りぬくしかない、という雰囲気になりがちです。必然的にプロジェクト中にクライアントと公式に会話をする場面も限られ、3か月のプロジェクトで2~3回の定例会を行うイメージとなります。

人事異動DXプロジェクトの例

それでは、人事分野のプロジェクトはどうでしょうか。一例として、人事異動の配置案を自動的に作成するDXプロジェクトを取り上げてみます。

まず気になるのが、なぜ配置案を自動的に作成したいのかということです。一見すると作業効率化のプロジェクトに見えるのですが、これまでの経験では実に多種多様な課題にたどり着きました。結果として自動化でなく人事施策の検討につながったこともあります。

以下、複数のプロジェクト経験を元にリストアップしてみました。

まずは、異動案を人事部門が集中的に作っている組織の場合の例です。単なる省力化だけが期待されているわけではないということがわかりますね。

  • 毎年全社の定期異動案を作っているが、時間がかかるので省力化したい。
  • 従業員の希望をできるだけかなえるような異動案を作りたい。
  • 組織の多様性を満足するような異動案を作りたい。
  • 人が足りないので常に充足できていない。案を作るよりも、各組織との交渉材料を提示してほしい。

一方、異動の意思決定を社内各組織で行っているような場合、配置DXという文脈で以下のような要望をいただいたことがあります。先ほどとは随分雰囲気が異なりますね。

  • 各事業部門が主導的に異動・配置を行っているが、実態を把握して課題を見つけ、人事部門として支援したい。
  • 社内公募制・ポスティング制の利用を促進するために、従業員一人一人にキャリアパスをレコメンドしたい。
  • タレント育成につながるキャリアパスを探し、戦略的な配置(異動)につなげたい。
  • 配置状況から組織戦力に対する課題を見つけ、採用施策を検討したい。

このように、データを使った人事異動DXといっても非常に幅が広いテーマがあります。また、配置といいつつも、人材育成やタレントマネジメント、採用など、人事としての業務幅も広くなる可能性もあります。これは非常に面白い点だと思います。

一方、人事データアナリストにとっての問題は、プロジェクトが開始される時点でこれらのテーマが渾然一体となっている場合があるということです。業務課題を丁寧にヒアリングすることである程度方向性が見えてくることもあるのですが、プロジェクト中に配置を超えて採用、人材育成などに議論が広がることは許容しなくてはなりません。

なぜなら、人事データ分析プロジェクトの目的は機能としての人事業務の改善ではなく、従業員と組織をよりよくすることにフォーカスしているからです。そのため、配置の問題から出発して、まったく違うテーマにたどり着くことも十分あり得ます。

以上の点から、他分野のプロジェクトと比較して、プロジェクト期間中にたっぷりとコミュニケーションの時間を確保しておかなくてはなりません。

メンバーが一体となって課題を探るために

ここまでの議論の見方を変えると、人事データ分析プロジェクトでは、クライアント(人事担当者)とデータアナリストが一体となって課題を探ることができる可能性があるともいえます。人事課題やアイデアを出発点として、データで実態を把握し、取り組むべき課題を考えていく形です。これは、人事データ分析の面白い特徴であると私は思います。

このようなプロジェクト進行を実現するには、以下のような工夫が必要です。

  1. コミュニケーションの密度を上げる。
  2. 人事業務を横断で議論できるメンバーをアサインする。(採用、配置、人材育成など)
  3. グラフを利用してコミュニケーションを図る。

ここで、1や2は創発的なプロジェクトに必要なアプローチかもしれません。多様性のあるメンバーで何か新しいことをやろうとすれば、たくさん話をする必要がありますよね。

わかりやすい例でいうと、組織横断型のワーキンググループを作って組織改善を行ったり、有志の勉強会をしたりするとき、活動を軌道に乗せるには密にコミュニケーションをとることが必須です。そして、単に事務連絡をするのではなく、お互いの理解を深めるような対話が望ましいでしょう。

人事データ分析プロジェクトでは、これに加えて「データを見ながらあれこれ話す」という時間が大切です。具体的には、ミーティングでふわっとでてきた「……だと思います」「……に課題があるよね」「こうしたらマネジャーがうれしいかも」といった言葉をヒントに、それをデータで確かめていくイメージです。

先ほど取り上げた異動・配置の話であれば、

  • 「ハイパフォーマーが集まっている組織がありそう」 ⇒ 組織別の戦力を集計し可視化
  • 「業務が集中している組織があって問題」⇒時間外や休暇取得状況を可視化
  • 「業績評価は公平なのだろうか」⇒組織や上司別に評価分布を確認
  • 「典型的な異動パターンはあるのか」⇒異動履歴を集計して可視化
  • 「組織の多様性が大切になってくる」⇒組織別に属性分布を確認

というような形で、議論になった点をできるだけデータで示すことを試みます。このとき、グラフが非常に役に立つわけです。

グラフを使うと視覚的に状況を把握することができるので、特に大きな問題が潜んでいるときにはインパクトを与えることができ、言葉よりも理解が進むことがあります。また、グラフを注意深くみることで、特異な人事属性や組織を発見することもできます。

このように、同じグラフをメンバー全員が眺めながらあれこれ話す、ということが人事データ分析では重要になります。そして、コミュニケーションを密度を高めるためには、データアナリストを組織に抱えるのがベストでしょう。

実際、ピープルアナリティクスを積極的に活用している企業は、人事部門の中に人事データ分析チームを持っています。そうした組織では、グラフを使って対話することは特別なものでなくなり、日常的な活動になっているはずです。ここまできてはじめて、データドリブン経営が人事に根付いているといえるのかもしれません。