人事の方とピープルアナリティクスで取り組みたいことを議論していると、実に様々なアイデアがでてきます。また、テーマについて話をしているときだけではなく、データ分析結果をレポーティングしている場面でも、取り組んでいるテーマを超えていろいろなアイデアが出てくることもよくあります。
例えば、異動業務の施策検討のために配置パターンについて類型化するプロジェクトでは、配置だけでなく人材育成や採用の話まで広がることがありました。配置というと異動に関することが中心になりそうですが、組織の人材ニーズに対する充足について課題が見えてくると、いろいろと話が膨らんできます。
目の前の「データ分析プロジェクト」を着地させることだけを考えると、こうした広がりはスコープクリープのリスクを生じさせるものです。他分野のデータ分析プロジェクトに慣れたアナリストからすると、驚かれるケースもありました。
しかし、人事分野においては、このような横断的な対話こそが重要だと感じています。
この記事ではこの点について掘り下げてみます。
横断的な議論によってテーマが見えてくる
外から人事業務を観察すると、採用、配置、育成、組織開発というように機能やプロセスが分かれているように見えます。実際に大きな組織ではこれらの機能単位でチームや担当者が分かれています。それに伴って、データ分析のテーマも絞り込まれる傾向にあります。
一方、人事担当者の目線は常に「従業員(人)」と「組織」に向いていて、採用や配置はその課題解決のためのプロセスにすぎません。そのため、制度設計や日常業務を回すときにはプロセス単位で詰めていくことになるのですが、戦略人事や人事施策を考えるときには横断的な議論になるのです。実際、横断的な議論を通してはじめて取り組むべきテーマが見えてくる場面を何度も目にしてきました。
ピンポイントなテーマに潜むリスク
逆に、こうした横断的な議論がない状態でピンポイントでデータ分析を実施すると、データ分析を行うこと自体が目的になってしまうこともあります。多くの場合、このようなデータ分析は業務に活用されず、プロジェクトとして失敗してしまいます。
例えば、以下のようなケースに遭遇したことがあります。(詳細は変えております)
- ハイパフォーマーの特徴分析を実施した際、そもそもやりたいことではなかったとしてプロジェクトが打ち切りになった。
- 職場離脱予測をテーマにAIモデルを構築したが、実務チームから不要と判断された。
- BERTを活用してタレマネデータの分類システムを作ったが、誰にも利用されなかった。
- 全社員のキャリア情報を誰もが参照できるデータベースを作ったが、メンテナンス負荷が高く、ユースケースも不透明で利用されなくなった。
Webマーケティングや生産現場の品質検査のように、長年にわたってデータ分析が活用されているような業務分野では、こうした問題は起きにくいのかもしれません。しかし、国内においてはピープルアナリティクスはまだまだ黎明期といえる状況ですので、手段と目的が入れ替わってしまうこともあります。
トップダウンとボトムアップ
この問題を解消するストレートな解決手段は、トップダウンで考えることです。経営戦略と人事戦略を踏まえて人事部門のあるべき姿を打ち立て、現状とのギャップから問題を定義して取り組むべき課題を検討していくようなアプローチです。人事に限らず、ビジネスの定番な問題解決アプローチですね。
しかし、ピープルアナリティクスに取り組み始めた場面では、こうしたストレートな議論はあまりワークしない印象を持っています。それだけでは「本音」に到達できないこともある、という意味です。これは、あくまでデータアナリストやデータ分析チームの立場から見たときの話です。人事チーム内では暗黙的に共有されているはずですが、その課題を分析と結びつけるためには、会話を重ねる必要があります。
そして、人事部門はやるべきことが多様であるがゆえに、機能ごとに分業されている点も見逃せません。先ほど述べたように、人事担当者が課題を考えるときの根本的な視座は「従業員(人)」と「組織」です。しかし、日々分業された業務に没頭していると、これらを横断的にとらえることが難しくなります。
もし、この状態でデータ分析やDXに取り組むことが作業として与えられると、課題を深堀りできない状態でテーマをあげてしまうかもしれません。先ほどあげた失敗ケースの背景には、こうしたメカニズムが潜んでいます。忙しいときに分析チームからテーマを出してほしいといわれると、どうしてもジャストアイデアになってしまいます。そのため、いくらトップダウン的なロジックで情報を集めようとしても、うまくいかないことがあるのです。
このような問題を解消するためには、対話に時間をかけることが重要です。はじめから課題の本質にたどり着くことは難しいかもしれませんが、ボトムアップな対話からヒントを得て議論を少しずつ広げていくことは可能です。このとき、人事の機能を横断するような対話を重ねることができれば、その速度は早まるはずです。
こうしたアプローチには時間がかかりますが、ピープルアナリティクスチームや人事データアナリストがクライアントたる人事を理解する上で、とても大切な時間だと思います。
人事横断的な議論の場を設ける
では、このような場をどのように設けていけばよいでしょうか。
これまでの経験をもとに、3つのアプローチが思い浮かびました。
1の目の方法は、人事部門の中でワーキンググループを形成することです。採用、配置、育成など複数のチームからピープルアナリティクスを研究し実践するチームを作って、実務への適用を真剣に考えていきます。このときに重要なのは、こうした取り組みを人事部門のトップや管理職が業務として推進することです。活動自体はボトムアップであっても、それが任意活動にとどまるならどこかで息切れしてしまうでしょう。
2つ目の方法は、公式なピープルアナリティクスプロジェクトを立ち上げることです。ふんわりした議論でなく、今まさに取り組むべき課題を取り上げて、短期集中で取り組みます。このとき、勉強のためのプロジェクトでなく、実務と紐づけ、部門長を巻き込んでQuick-Winを目指すことが重要です。これにはコストも必要になりますので、否応なしに人事戦略や施策と連動したテーマになるはずです。必然的にピンポイントでなく、横断的な議論が必要になるでしょう。
3つ目の方法は、ワークショップや研修などの日常業務から離れた場面を活用して、横断的なコミュニケーションを図るという方法です。こちらは過去に何度か実践したことがあるのですが、短時間で多くの気づきとアイデアを生み出せるだけでなく、縦割りを解消する効果がありました。
以上、3つのアプローチをご説明しましたが、実際にはこれらを組み合わせていくことになるでしょう。データドリブンな組織文化を作ることは一筋縄ではいきませんが、時間をかけて対話をしていくことがポイントだと考えています。