ピープルアナリティスクに携わるデータアナリストは、人事担当者やデータ管理部門など多くのステークホルダーと会話を重ねながらプロジェクトを進めていくことになります。分析テーマやアプローチの検討から始まり、定期的なディスカッション、意思決定者へのレポーティングなど様々な場面があります。あるいは、データアナリストチーム内で、メンタリングを受けることもあるかもしれません。こうした会話はとても大切です。

その一方で、データアナリストはデータから何らかの知見や考察を得るべく、データ分析作業に時間をかけます。データの抽出から前処理、モデリング、評価、報告書の作成までやることはたくさんありますね。

分析プロジェクトに参画して間もない方は、思ったよりも前処理に時間がかかったり、評価方法がわからなかったりして、余裕がない状態になることもあるでしょう。また、プロジェクトで採用した分析手法が未経験で、どうやって分析したらよいのだろう?と焦って調べることになるかもしれません。

このようなとき、期日までに作業を終わらせることを目指し、とにかく手を動かすことを優先する方もいらっしゃることでしょう。しかし、データアナリストは手を動かすこと以上に考えることに重きを置くべきです

分析アプローチを工夫する、データの初期分析を通してデータと組織に対する理解を深める、分析結果を考察して何らかの結論を導くなど、分析作業以外に時間をかけるべきことがあります。


私が未経験でデータサイエンティスト職についたときには常にギリギリの状態で、常に時間に追われている気持ちになっていました。当時の状況を少し振り返ってみます。

分析チームのミーティングで様々な議論がなされるのですが、その半分も理解できない状況でした。自分に振られたデータ処理や分析作業にかかわるキーワードを何とかメモし、ググったり本をかき集めたりしながら、何とか手を動かせる状態を目指していました。しかし、手を動かし始めると分からないことがさらに出てきてしまい、作業はどんどん遅れていきました。

必然的に業務時間内では到底終わらず、終電で帰った後も専門書を読み、土日もフル活用することになりました。それなのに、いくら手を動かす時間を増やしても、成果につながらかったのです。

あるとき、ミーティングで指示された分析を実施し、結果をチームミーティングで報告したときに、上司から厳しい顔で「なぜこのようなアプローチをとったのか?」と指摘を受けたことがありました。ほぼ徹夜で仕上げたものだったので頭があまり回っておらず、たどたどしくミーティングのメモを説明しました。しかし、「そういうことは聞いていない。なぜ武田さんがこのような方法を選んで、どう考察したのか聞きたい」といわれてしまったのです。そして、終電時間がくるまで延々とディスカッションが続くことになりました。

その職場に来る前はSEとしてプロダクト開発に携わっていましたので、この会話には困惑した記憶があります。開発の現場では、ステークホルダーのコンセンサスを得られた方針に対して、「なぜ」を問われることは基本的になかったからです。もしあるとすれば、トラブルになったときや、損益にぶれが生じるときだけでした。

このときの私に足りていなかったのは、データサイエンティストとして分析プロセスと結果に責任を持つという姿勢でした。どこかで初学者だからという甘えがあり、作業者になっていたのですね。


作業者になると手を動かすことを優先してしまい、作業結果を並べただけの報告をしてしまいます。例えば、グラフを描いたらこうなりましたとか、分類モデルの精度はXX%ですとか、重回帰のAICはXXで偏回帰係数のp値はこれこれです、というようなことを説明して、「次は何をしましょうか」という会話になってしまいます。それではデータサイエンティストやアナリストとして価値を出すことは難しくなります。

データサイエンティストやアナリストは作業者以上の価値を出すことがもとめられます。仮にミーティングでコンセンサスを得られた方針に沿って分析を進めたとしても、設定された問題の解決に適しているかどうか改めて考える必要があるのです。また、分析の目的を達成するために、できる限り打ち手を考えることも大切です。そして、得られた分析結果を考察し、当初の分析目的につながる洞察を提示することが求められます。

これを目指す上での第一歩は、「自分の頭で考え抜く」ということです。分析を始める前、結果を見たとき、報告書を書くときなど、自分で考える場面があります。クライアントから「なぜ」と問われる前に、自分自身でいったん考えてみましょう。経験やスキルが足りなかったとしても怖がらず、自分なりの考えと結論を出してみます。そうすることでようやく、ミーティングやチームメイトとの壁打ちに意味がでてきます。

このアクションをとるためには、考える時間を確保する必要がでてきます。したがって、データ分析作業の段取りを考えるときには、意図的に考える時間を組み入れる必要があります。

過去にデータサイエンティストをOJTで育成したときには、必ず考える時間を確保するようにアドバイスしていました。自分が思ったよりも時間がかかるからと。

しかし、初学者かつ責任感の強い人になるほど、ギリギリのスケジュールを引いて「できます!」といってしまうものです。そういうときには、スケジュールがはみ出すことを想定して、全体のスケジュールをコントロールするようにしていました。たとえスケジュールがはみ出したとしても、考えることの必要性を理解していただく方がチームにとっても本人にとってもよいと判断したからです。

「もっと考えるべきだった」と素直に受け入れられると、成長スピードがぐんと上がっていきます。実際、私が育成してきたデータサイエンティストのみなさんは、作業者から脱却することでレベルアップしていきました。


人事データ分析のプロジェクトは、他分野のプロジェクトよりも会話に時間をかける印象を持っています。分析方針やアイデアを考えるミーティングが頻繁に開催され、その中で多種多様な話題が展開されます。例えば、配置の分析プロジェクトでも、採用や育成の話がポンポン出てきます。人事プロセスのつながりを考えると納得できる話ですが、物理的に作業時間が減ってしまうリスクもあります。

そのため、人事データアナリストの方は、意識して自分で考える時間を確保するとよいと思います。様々な方と壁打ちしながら考えをまとめていくことも有効ですが、最終的に結論を出すときには自分ひとりで言葉にする必要があります。

誰かに相談したくなる気持ちを少し我慢して一人の時間を確保し、じっくり考えてみましょう。そうすることで、ステークホルダーとのミーティングがより一層価値のあるものになります。