最近、AI検索がGoogleのビジネスにどう影響を与えるのか気になっています。本記事は、AI検索の動向を探りつつ、強固なビジネスモデルを持つ企業の変革について考えてみます。また、最後に企業変革においてデータをどう活用していけばよいのか考察します。

AI検索の行く末

LLMによるAI検索はGoogleのビジネスモデルにどんな影響を与えるでしょうか。PerplexityのAI検索は驚くほど使いやすいので、重宝している方も多いでしょう。ほぼ独占状態にあるWebサーチ分野で、AI検索はそのビジネスモデルを揺るがすものになるかもしれません。

一方、Perplexityも広告を取り入れることを検討しているといいます。GoogleのAI検索も同様の方針。Open AIもAI検索に参入するようですが、そのビジネスモデルは今のところ広告に寄らないように見えます。

米AI検索・PerplexityCEO「メディアと広告収入分配」 日本でも意欲 - 日本経済新聞
【シリコンバレー=山田遼太郎】人工知能(AI)を使う検索サービスを手がける米新興企業のパープレキシティは、広告収入をメディア企業と分配する仕組みを始める。アラビンド・スリニバス最高経営責任者(CEO)が17日に明らかにした。米メディアと近く契約を結び、将来は日本を含む海外メディアにも提携先を広げる。スリニバス氏が日本経済新聞のオンライン取材に応じた。パープレキシティは文章形式で質問を入力すると

この行く末はまだ見えていませんが、Web検索や調べものの入口が増えていることには変わりありません。仮にAI検索のビジネスモデルが広告依存になったとしても、従来のそれとは収益性が異なる可能性があります。

Googleは強力な広告連動ビジネスモデルがあるがゆえに、それを簡単に手放せません。それに代わる「収益規模が小さく見える」サービスにシフトするのは厳しいからです。もしそれが破壊的なサービスだっとしても。

これは至る所で見られる現象です。ハードウェアとSESを収益の中心にしていたITベンダーが、クラウドビジネスに移行することの困難さも然り。

とはいえ、大きな変化は、その始まりの現象とは違う形に帰着することもあります。極端な話、AI検索がAIエージェントの中に内包されれば、広告の意味合いが随分変わってきます。

絶対優位の企業を揺るがすもの

自社ビジネスが市場で優位な企業は、競合他社に比べて戦略・オペレーション共にエクセレントな状態になっています。もしそれがロバストで外から壊せないようなビジネスモデルに昇華したとき、その企業は独占に近いポジションに君臨することになります。GoogleのWebサーチやマイクロソフトのOSはその典型例といえるでしょう。

しかし、その優位性が未来永劫続くとは限りません。ビジネスモデルを揺るがす技術や社会動態、新しいビジネスの仕掛けによって、市場構造が破壊されることがあるからです。ローエンド商品やコンセプトが異なる商品が新しい市場価値を生み、市場そのものを変えてしまう破壊的イノベーションはいつの時代にも脅威です。

戦略、オペレーション、資金ともに豊富なトップ企業が市場の変化に追従できないのはなぜなのでしょう?

市場のリーダーが変化に対応できないとき

典型的な戦略論によれば、市場のリーダーは2位以下の企業の動向をよく見ておいて、ある程度市場の動きが見えてきた段階で豊富な資金を投入すればよいともいわれます。これは理にかなった戦略に聞こえます。

しかし、参入市場の変化をもたらす要因が、既存ビジネスの規模からみて小さいものだったとしたらどうでしょう?

この場合、往々にして大企業は手を出しにくい状況になります。なぜなら、大企業の「新規ビジネス」は、すでに成功して会社を支えている既存事業と同等のビジネス規模を求められるからです。

一方、市場の変化をもたらす要因が、どう考えてもビジネスモデルを破壊しそうな場合はどうでしょうか?

賢明な企業であれば、何らかの手を打つことでしょう。経営企画部門が旗を振って動くかもしれませんし、イノベーション推進室が設置されるかもしれません。もしくは、全社に向けて危機感を煽り、アイデアを募集するような動きをとることもあるでしょう。しかし、直観的ではありますが、往々にしてこうした取り組みは上手くいかないように見えます。

例えば、AIやDXといったバスワードが登場すると、大きな企業は高確率で「○○推進室」という組織を作って変革を目指します。また、デザイン思考やサブスクリプション(もしくはオンデマンド)のような画期的に見える方法論が輸入されると、全社に向けて教育が展開されます。しかし、こうした動きがインキュベーションにつながったという話は数えるほどしか聞こえてきません。

このように、市場のリーダーであるからといって、必ずしも市場の変化に対応できるとは限りません。

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この点、GoogleはGeminiを開発し、AI検索も含めたLLMに真っ向から対抗しようとしていますので、非常にスリリングな展開になっていると感じます。今のところGoogleはビジネスモデルの変革に前向きに見えます。

ただし、広告を含めたAI検索やエンタープライズクラウドのLLMが、Googleの広告ビジネスほどの収益性を上げるとは考えにくい面もあり、戦略的に難しい局面に来ているように思います。

そもそもLLM躍進の元をたどると、Googleの研究者が開発した「Transformer」というディープラーニングのモデルに行き着きます。そのGoogleがLLM/生成AIビジネスでOpen AIに後れを取ったこと自体が、企業変革の難しさを物語っているように感じます。

構造的な問題が企業変革を阻む

逆説的ではありますが、成功している企業ほど、市場の破壊的な変化に対応することは難しいのではないかと考えています。なぜなら、市場優位に至った戦略とオペレーション、企業文化が足かせになってしまうからです。端的にいうと構造的な問題です。

構造的な問題であるがゆえに、個別の組織を作ったり、スキル・マインドの底上げをしたりするだけでは上手くいかないのではないでしょうか。

考えてみると、市場でトップの企業を「安定的に」トップたらしめているのは、安定的で強固な事業マネジメントが確立されているからに他なりません。つまり、何らかの合理的で分業化されたシステムができているのです。それはきっと、F1のマシンのように、現在の市場環境に向かってカリカリにチューニングされているのではないかと思います。

経営学者である宇田川教授は、著書「企業変革のジレンマ」の中で、そういう構造こそが変革の壁になっていると論じています。成功した組織が変革できない状態を「構造的無能化」と呼びます。

構造的無能化というのが気になった方は、ぜひ本書の第1章「あなたの会社で今、起きていること」を読んでみてください。ある程度企業の中で仕事をしたことがある方でされば、身につまされるのではないかと思います。かくいう私も共感しつつ、また切迫感を持って読みました。

データサイエンスは企業変革にどう貢献するのか

既存市場では収益を上げることができているが、市場を破壊するプレイヤーや技術の足音が聞こえてきているのような状況。まさに「企業変革のジレンマ」で示された構造的無能化に対して、データサイエンス、つまり企業内のデータ分析チームは何に貢献できるのでしょうか?

データで現実を見る

第一には、現実を直視するために役立つと考えられます。

たとえば、商品の売上や収益性が徐々に低下していることや、組織エンゲージメントに異常が生じているなど、組織で起きていることを数字で見ることは有益です。また、これまで企業変革や新興企業に対抗するために打った手が本当に効果的だったのか、数字で確認することも重要です。

まず現実を見るためにデータを活用するのは有益なことです。

もう一段掘り下げる

その一方で、売上や損益、LTV(顧客生涯価値)、エンゲージメント、離職率などのデータは、組織で起きている複雑な問題からすると表層的なものです。もし仮に組織が「構造的無能化」状態になるなら、こうした数字だけを見てシンプルな打ち手を考えるだけでは解決の糸口を見つけることは難しいでしょう。

事業の黎明期や成長期であれば、リーン的な発想で数字を改善していけば上手くいくこともあるかもしれませんが、衰退期にはそうもいきません。問題の背景には表層的な数字では捉えられない、構造的、文化的な問題が潜んでいるからです。

したがって、大きな変革を目指す場合には、データだけを見て打ち手を考えるのは得策ではなく、もう一段議論を深める必要があります。

対話のためにデータを活用する

「企業変革のジレンマ」では、以下の4点に長期的に取り組むことが必要だと述べています。

  1. 全社戦略を考えられるようにする
  2. 全社戦略へのコンセンサスを形成
  3. 部門内での変革の推進
  4. 全社戦略・変革施策のアップデート

これらのプロセスを進める上で、「対話」が重要になるといわれいます。ここでいう対話は「他者を通して己を見て、応答すること」と定義されています。組織の本質は人と人の相互作用であり、変革を成し遂げるためには対話が欠かせないのだといいます。

こうした変革プロセスでは、データは主役でなく脇役になります。数字だけを見て意思決定するのではなく、組織自体を変える必要があるからです。

しかしながら、異なる立場の経営層や従業員が目線を合わせる上で、データは重要になります。一つのデータグラフを元に様々な意見がではじめるという場面は何度も目にしてきました。つまり、変革途上においては、対話を促すためにデータを活用すべきではないかと私は考えています。