ビジネスデータの活用はあらゆる業務で広がり続けています。ビジネスリーダーのビジョンを実現するために様々な課題を乗り越えていく必要がありますが、データは課題解決の手掛かりを得るたの協力な武器になります。
ビジネスでデータを活用する場面は幅広く、マーケティング、製造品質の改善、人材育成など様々な業務領域で効果をあげています。また、こうしたインハウスでの活動だけでなく、製品やサービスの付加価値を付けるためにデータを積極的に活用するケースも増えてきました。
このようなデータを武器としてビジネスを強化する経営スタイルを、データドリブン経営といいます。
例えば、GoogleやAmazon、NetflixなどのWebネイティブ企業はデータによってその競争力が支えられています。一方、スターバックスは実店舗を持つコーヒーチェーンですが、顧客サービスや経営の意思決定にデータを活用していて、データテック企業と呼ばれるほどです。また、国内ではワークマンがデータドリブン経営に取り組み、出店に対する意思決定や物流業務の効率化で効果を上げた事例がよく知られています。
それでは、データドリブン経営ではどのようなことに取り組めばよいのでしょうか?
類似の事例から発想を広げることもよいですが、自社が直面している課題は多種多様であるため、事例を単純にスライドすることは難しいはずです。仮に使えそうな事例が見つかったとしても単発の取り組みとなってしまい、効果がなかったと判断されプロジェクトが終息してしまうかもしれません。
そこで、こちらの記事ではビジネスデータを活用するための切り口をお伝えし、発想を広げる「ビジネスデータ活用マップ (BDUM)」をご紹介します。
データ活用テーマを考えるための2つの切り口
私はビッグデータブーム目前の2011年にデータサイエンティストに転身し、社内外の新規のデータ活用プロジェクトに携わってきました。その後のAIブームもあり、製造、流通、医療、公共、人事、社会インフラなど多種多様なお客様のプロジェクトを技術面から支援してきました。また、データを活用した自社サービスの開発にも参加してきました。
しかし、こうしたプロジェクトの多くは単発で終わり、時間の経過とともに関連部門が縮小されていく場面を何度も目撃にすることになりました。
この原因は様々ですが、突き詰めると経営に良いインパクトを与えることができなかったという問題に帰着すると考えています。ジャストアイデアで始めたプロジェクトや、DX部門を作ることが目的となった取り組みは、往々にして数年で縮小してしまいます。
その一方で、経営課題にガチっと刺さったデータ分析プロジェクトやチームは今も活発に活動しています。それは必ずしもプロフィットな活動だけではありません。
以上を踏まえ、経営課題に根差すテーマを発掘するための2つの切り口をご紹介します。
意思決定とオペレーション
ビジネスでのデータ活用は様々なユースケースが存在していますが、大きく分けると意思決定支援とオペレーション効率化に分けられます。
- 意思決定支援: 経営課題の発見や課題に対する施策実行の判断にデータを活用する。
- オペレーション効率化: 業務プロセスやエンドユーザーの生産性を改善する。
ピープルアナリティクスを例として考えてみましょう。
人事データから離職率の急激な高まりを発見し、エンゲージメントや組織マネジメントの打ち手を考えるような取り組みは意思決定支援になります。一方、オ勤怠データから労務管理上のコンプライアンスリスクを早期に抽出してアラートをあげる取り組みは、ペレーション効率化の代表例といえるでしょう。
ところで、なぜ意思決定支援とオペレーション効率化に分けて考える必要があるのでしょうか。
第一には、意思決定支援とオペレーション効率化では、データ分析のアウトカムを利用する人と使い方が大きく異なるからです。これによって、テーマ検討の進め方や組織作りが変わってくるというのが第二の理由です。
意思決定の場面では、究極的には施策のGO/NoGO判断をするための材料として、データが活用されます。また、施策の効果があったのかどうか定量的に判断することも求められるでしょう。施策効果の測定は難しいものですが、経営指標からブレイクダウンされたKGI/KPIにつながるものであれば、その活動は間違いなく持続されていきます。例えば、Web企業のマーケティング分野では、この接続を意識した形でデータ分析チームが組織されています。
こうした場面でデータ分析を行う場合、ビジネスリーダーが必要とする高度な問いに対して、ファクトベースで分かりやすい判断材料を提示することが必要です。統計モデリング中心のアプローチで注意深くロジックを整理しつつ、グラフなども活用して理解を助けるレポーティングを行うことになります。そして、このアウトカムは意思決定グループ内で共有されて何らかの意思決定が行われた後、施策を展開する際の根拠の一つとして部分的に開示される可能性があります。このように、意思決定支援では、基本的に限られたメンバーへの開示が前提となります。
一方、オペレーション効率化にデータを活用する場合は、現行業務プロセスの生産性改善がゴールになります。基本的には既存ITによってカバーできていない人的作業を特定し、デジタル化の余地を検討した上でデータを用いた改善を試みます。
効率化を突き詰めると何らかの自動化が必要となるため、AI・機械学習中心のアプローチになります。ターゲットとなるのは、ある程度均一化されたオペレーションです。熟練度によって差があるものの、100人いたとしたら80人は同じ結果になるような作業が狙い目です。もし、100人いて100通りの結果になるようなユニークな作業であったら、データによるアプローチは不向きでしょう。
組織内か、それとも組織外か
ここまでは組織内の意思決定やオペレーション効率化に焦点を当てて議論してきましたが、製品やサービス自体に付加価値を付けるたにデータを活用することもできます。
例えば、クラウドサービスを世の中に送り出すとき、ユーザーの反応を見ながらUXを改善を重ねることは日常的に行われています。A/BテストによってUXのパターンを定量的に評価しながら改善に対する意思決定を行うイメージです。また、ECサイトやオンライン教育サイトにさりげなく実装されているレコメンド機能は、エンドユーザーの意思決定を支援する機能と捉えることができます。
それでは組織外、つまりエンドユーザーのオペレーション効率化というのはどのような場面でしょうか。一例として、ユーザーの前回までの操作ログを記録し、似たような入力を行うときにサジェストする機能があげられます。また、クラウド会計ソフトウェアに搭載されている自動仕訳機能も同様です。これらはユーザーの利便性を向上させ製品の付加価値となり得るものですが、その性質はユーザーオペレーションの効率化といえるでしょう。
これと対照的に、クラウドサービスの利用ログからユーザーがよく利用する機能を集めてデータ化するような取り組みは、組織内のオペレーションの効率化に位置づけられます。
このように、組織の中と外の両方に目を向けることで、データ活用のアイデアを広げることができます。
ビジネスデータ活用マップ(BDUM)
ここまでにご紹介した2つの軸を掛け合わせると、4つの組み合わせを作ることができます。これをマトリックスで表現したチャートを「ビジネスデータ活用マップ (BDUM)」と名付けました。

このBDUMに示される4つの領域それぞれで、データを活用するチャンスがあります。それぞれの取り組みをひとことで表現すると、「ファクトを見て決断する」「提案型UXを実現する」「業務の生産性を改善する」「利便性を向上させる」というテーマになります。
イメージを持っていただくために、BDUMに具体的な例を当てはめると次のようになりました。

データドリブン経営というと組織内の意思決定支援の文脈でとらえることが多く、ともすればビジネスKPIの設計とBI導入の話に偏りがちです。確かにこれは重要な取り組みですが、このマップを使うことで発想をさらに広げることができます。
例えば、Webサービス企業は、Webサイトにレコメンド機能を付けることでユーザーの意思決定を暗黙的に支援しています。ユーザーは「自分の関心に沿って表示されるから便利だな」と思うわけですが、売り手からすると売上の拡大を目指すための活動となります。
一方、組織内のオペレーション効率化は古くからITによる改善が試みられてきた領域です。もし、ルールベースの業務システムでは実現できない非デジタル化領域があり、しかも生産性に影響を与える要素があるなら、データ活用を検討する余地があるでしょう。
最後に組織外のオペレーション効率化について考えてみます。組織外とサービスの利用者と想定すると、何らかの形で操作性や作業を改善する活動がこの領域の狙いとなります。例えば、人手でパラメータを設定する手間があるような機材があったとき、過去の稼働データから自動的にパラメータを設定するようなアイデアです。こうした取り組みによって、利便性を上げていく狙いがあります。
インハウスのBDUM(ピープルアナリティクスの例)
BDUMは人事や財務といったインハウスの活動にも利用することができます。縦軸の組織内・組織外という項目を、それぞれの組織に置き換えてみるわけです。具体的に、ピープルアナリティクスの場合を想定して、BDUMを書いてみると以下のようになりました。

ピープルアナリティクスの事例を見ていると、人事組織内の意思決定に寄与するよなテーマがよく取り上げられていることに気づきます。例えば、パイパフォーマーの分析を行ってタレント育成の施策を検討したり、エンゲージメントの課題を発見したりするようなテーマです。
その一方で、人事の方とお話をしていると、人事内の意思決定支援にとどまらないアイデアが次々と生まれてきます。それは、人事部門と従業員の接点に関するもので、コーポレート部門であるからこその発想でしょう。
また、人事の方は外から見るよりもはるかに多くの作業を掛け持ちしているようにも感じています。人事業務の幹はシステム化されているのですが、イレギュラー対応やシステムとシステムの隙間に落ちているタスクが多数あり、Excelなどを駆使しながら何とか回しているというタスクもあります。このような、組織内作業を改善することも、データ活用のテーマになります。
柔軟に発想を広げる場づくりを
この記事では、BDUMを使ってビジネスデータの活用シーンを広げることをお伝えしてきました。データ活用には大きな可能性がありますが、アイデアをうまく広げられないという声もよくいただきます。テーマを検討するときに事例から発想することも有益ですが、自組織や製品、お客様に目を向けながら取り組むべき課題を探っていくと、効果的なテーマに取り組むことができます。ヒントは自分の半径5メートルに落ちているかもしれません。
このようにして見つけたアイデアは原石であり、それを事業や経営につなげるためには、チームで議論することが大切です。オープンに話すことでアイデアが広がります。オープンにアイデアを出し合える場を意図的に作ることも必要かもしれません。
このような議論を行うとき、大量に出てきたアイデアをBDUMにマッピングすることで、活動に軸を持たせることができます。一方、少数のアイデアしかでなかった場合には、それをBDUMにピン止めして、その前後左右のホワイトスペースについて考えてみるとよいでしょう。